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植物図鑑/有川浩のあらすじと読書感想文

2015年11月18日 竹内みちまろ

植物図鑑のあらすじ


*ネタバレがありますので、ご注意ください

 25歳で一人暮らしをしている河野さやかは、土日が休みの職場で働く会社員。最寄り駅からほどほど近いマンションの2DKの部屋に住んでいます。

 2月中旬、終電ギリギリの飲み会の帰り、リュックサックを背負ったままマンションのポーチの植え込みに倒れていた25歳の男・日下部樹(くさかべ・いつき)を発見しました。

 死んでいるのだったら通報しなければならないと思い、さやかは人差し指で樹のほほをつつきます。樹は目を覚まし、さやかは「けっこういい男」と思いました。

 樹は、しゃがみ込んださやかの膝に丸めた手を載せ、「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか」と言います。さやかは「まるで犬のお手みたい」と思いますが、樹の「咬みません。躾のできたよい子です」との言葉を聞き、「やだ、やめてー!」とますます笑いが止まらなくなりました。

 さやかは、樹を部屋にあげ、カップラーメンをご馳走し、半年前に別れた彼氏の洋服を引っ張り出して差し出します。樹は「僕が使ったら悪くない?」とちゅうちょしましたが、酔っていたさやかは、「あなたが気にする必要ないのよワンちゃん」などと口にし、ベッドに倒れ込んで寝てしまいました。食費3万円プラス雑費1万円で樹が掃除や洗濯などの家事、炊事、さやかのお弁当作りを担当するという奇妙な同居生活が始まりました。

 樹との生活が始まると、さやかは、仕事でツキがなくミスをしてしまった帰りに玄関で樹の背中に手を回して泣き出してしまうことも1度や、2度ではありませんでしたが、それまで家と駅との往復で、コンビニ弁当をかき込み、休日はだらだら過ごしてさやかの生活に変化が起こり始めました。

 樹は、ある休日、さやかに、「今日、いい天気だよ。ちょっと散歩行かない?」と声を掛け、駅の反対側にある河川敷に連れ出します。そんな場所があることすら知らなかったさやかは、景色の良さや、川風の気持ちよさに、「わぁ……」と思わず声を漏らします。樹は木の根元にしゃがみ込み、さやかを巻き込んで、フキやフキノトウ、ツクシを摘みました。家に帰ると、樹は、ツクシの佃煮、フキ味噌、フキノトウの天ぷらなどを料理します。さやかがねだったフキノトウの天ぷらは苦かったのですが、さやかには、家の近くで摘んだ植物を食べることも、樹の料理も新鮮で、翌週の週末は生憎の雨で出かけることができませんでしたが、さやかは、週末の「散歩を兼ねた狩り」を楽しみにするようになっていきました。

 春が来て、新緑の季節になり、さやかと樹は、恋人関係になります。梅雨が過ぎ、夏になり、厳しい残暑を乗り越えて、ようやく秋が来ます。薄味ですが美味しく健康的な樹の料理を食べ続けているさやかは、いつの間にか、外食の味付けが濃すぎると感じるようになっており、ダイエットをしたつもりがなくても痩せるようになっていました。

 しかし、コートが無いと通勤できない季節を目の前にして、さやかが家に帰ると玄関のドアに鍵がかかっていました。部屋に入ると、寝室が、樹が来る前のレイアウトに戻っていました。テーブルの上に「さやかへ」と書かれた封筒があります。一筆箋に「ごめん。またいつか。」とだけ記されていました。そして、さやかを撮った3枚の写真と、樹が作った料理をレシピが記されたノートが残されていました。

 「本当はもう分かっていた」、「いつまでもこのままではいられない」などとは感じていたものの、さやかは、「そんなことは夢だと大人ぶった誰に諭されても笑われてもいい」、「それでも、ずっと一緒にいたかった」と泣きました。それから始まった冬は、ほとんど呆然としたまま過ごしました。

 春が来ると、さやかは、樹と一緒に散歩して野草や山菜を摘んだ記憶をたどり、樹と過ごした時間をなぞるように、川辺へ出かけて、料理をするようになります。樹が残したノートを見ながら、「ねえ、今どこにいるの? あたしはここにいるよ。イツキと去年出かけた場所を、季節の順に回ってるよ」と話し掛けます。

 夏と残暑が過ぎ、秋が深まり、コートが無いと外出できない季節を迎え、2月になりました。さやかがマンションに帰ると、樹がドアの前に座り込んでいました。

 樹は、「ごめん。あのままじゃもうさやかと一緒にいられないって思ったんだ。ちゃんと自分のこと色々片づけないと」と切り出します。父親が生け花の大作家で、長男である自分が家を継ぐと思われていたことや、半年かけて家に関する相続権をすべて放棄したことや、母校の大学の教授が出版した『日本の野草・春編』という図鑑に写真提供者として「日下部樹」というクレジットが掲載されたことや、教授の研究室で助手を務めることになったことなどを説明します。

  そして、樹は、誕生日が3月1日で、あと10日で28歳になることを告げます。さやかに、「一緒に生きていきたい」と伝えました。

植物図鑑の読書感想文(ネタバレ)


 『植物図鑑』を読み終えて、『植物図鑑』は、時間のかけがえのなさを描いた物語だと思いました。

 さやかは、樹と暮らすようになってから、休日に野草を摘んだり、樹と一緒に料理をするようになりました。それまでは外食だったお昼も、樹が作ってくれるお弁当を会社で食べるようになります。

 樹と出会う以前のさやかにとって、「オン」と「オフ」という言葉があるとしたら、仕事が「オン」で、仕事以外が「オフ」だったのかもしれません。が、樹と一緒に暮らし始めるようになったさやかは、樹と一緒に散歩や狩りをする時間、樹の料理を食べる休日や夜の時間、お弁当を食べる昼休みを楽しみにするようになります。充実した時間という意味では、そんな時間が、さやかには「オン」になったのかもしれないと思いました。

 2人が出会ってから始まった散歩や狩りの様子は、かなりのページ数を使って細かく描かれています。

 ストーリーを急ぐのであれば、2人の関係が進展するエピソードである、さやかが樹のアルバイト先を覗きに行ったり(文庫版で203ページから)、飲み会の帰りに会社の同僚・竹沢にしつこく言い寄られる(文庫版で215ページから)場面などをもっと早くに出して、読者に、これからどうなるのだろうと思わせる必要があるのかもしれません。しかし、『植物図鑑』では、約200ページまでを使って、散歩と狩りの日々がたっぷりと描かれます。

 ただ、そんな散歩と狩りの場面は、読んでいて退屈ではありませんでした。むしろ、ストーリー的には、さやかの樹への気持ちがゆっくりと高まっていくだけで具体的な進展はないのですが、さやかが苦いフキノトウの天ぷらを甘い天つゆにたびたび浸して一気食いする場面や、2人がワラビ取りに夢中になって2時間が過ぎていた場面や、ごま油でしょうゆ味に炒めたイタドリを食べたさやかが白いご飯を欲しがったりする場面が楽しくて、すらすら読めました。

 なぜ、すらすら読めたのかを考えてみると、自分もさやかと同じようにマンションと駅の往復を繰り返し、料理をせず、「オン」と言えば仕事のことで休日はだらだらと過ごしていたからかもしれないと思いました。さやかと同じように、樹がもたらした生活が新鮮であり、そして、そんな生活は心地よいものと考え、憧れを持っているからかもしれないと思いました。

『植物図鑑』を読んで、 仕事は「オン」とか「オフ」とかの問題ではなく、しなければならないものなのだと思いました。そして、仕事以外の時間、つまり、毎日繰り返す普段の生活の中の時間こそ、「オン」のスイッチを入れて、しっかりと過ごさなけばならないのだと思いました。



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