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レインツリーの国/有川浩のあらすじと読書感想文

2015年1月22日 竹内みちまろ

レインツリーの国のあらすじ(ネタバレ)


 大学卒業後、関西から上京して入社3年目の向坂伸行は、初ボーナスで買ったノートパソコンで、中学生の時に読んだライトノベル『フェアリーゲーム』を検索した。感想は少なく、ラストシーンに言及しているものはすぐには見つからなかったが、『レインツリーの国』と題したブログに感想がアップされていた。『レインツリーの国』の管理者は「ひとみ」で、プロフィールには「都内在住、2X歳、女性」とだけ記されてた。

 伸行は「ひとみ」にメールを送り、2人のメール交換が始まった。お互いに間を置かずに返事を送信する仲になり、伸行は「会って話してみん?」と誘った。「ひとみ」からの返事は5日間の時間を要し、「私も伸さんと会ってみたいです。でも、それと同じくらい、会うのが怖い気持ちも強いです」などと書かれていた。伸行が、それなら電話で話さないかと誘うと、「ひとみ」は会うことを承諾した。

 「ひとみ」は垢抜けておらず、伸ばしっぱなしの黒髪の端をぱつんと揃えただけのスタイルは、顔立ちや服装には重すぎた。ひと言で言えば「惜しい」女の子。そんな「ひとみ」は、映画館では混みあうチケット売り場で字幕上映にこだわり、デートは、雨の中、傘をさして無言で歩くようになった。「ひとみ」がエレベーターに乗ると重量オーバーを告げるブザーが鳴った。それでも降りようとしない「ひとみ」の腕を取って、伸行はエレベーターから引きづり降ろした。「ひとみ」に苛立ちを覚えていた伸行は「自分の代わりに誰か降りろみたいなみっともない真似すんなや!」と声を荒げた。「ごめんなさい」と深々と頭を下げた「ひとみ」は耳掛け式の補聴器を着けていた、伸行は「ひとみ」が聴覚に障害を持っていることに気が付いた。うろたえる伸行に、「ひとみ」は、嫌になっていなかったらメールだけは続けたいことを口にし、「『フェアリーゲーム』は特別だったから。あの本で知り合った伸さんも、特別だったから」と涙をこぼした。伸行は、去って行く「ひみと」の後を追うことができなかった。

 伸行は、「ひとみ」に謝りたかった。同時に、どうして最初から障害のことを話してくれなかったのだろうと「ひとみ」を攻める気持ちも沸いた。伸行は、「ひとみ」にメールを送り、謝ると同時に、「好きな人にこんなに信用されていないことを突きつけられて、ものすごくへこみました」と、関西人特有の言い回しで、気持ちをストレートに伝えた。メールを「願わくば、もう1回君との糸が繋がりますように」と結んだ。

 「ひとみ」からの返事には、「じゃあ私と付き合ってなんて言ったら絶対引くもの」「同情で楽しい一日をもらうんじゃなくて、メールで楽しかったみたいに、普通に会いたかったんです」などと記されていた。伸行は「もしかしてさ、」と題したメールを送り、「俺ら、今初めてケンカしてるよね。ごめん、無神経なこと言うてもええ? ケンカできるくらい俺らお互いにライン割ったんやなって今ドキドキしてる」と返事を書き始めた。「君を傷つけた償いに、女性として自信を持たせるために健聴者から告白してやろうとか、俺どない人間やねん。いくら何でも君も俺をそこまでバカにする権利があるんか?」などと書いた。「ひとみ」は伸行のペースに押されっぱなしで、無料のチャットルームを利用した会話も始め、「ひとみ」が事故で障害を持つようになったことや、障害者として採用された会社で辛い思いをしていることなどを話すようになった。「リベンジデート」では映画を見て、「ひとみ」の提案で、防音のため話しやすいカラオケボックスで食事を取った。伸行は、キスをしようとしたが、「ひとみ」は「嫌ッ!」と伸行を突き飛ばした。

 「気を遣っているようで微妙に自分本意」な「ひとみ」と伸行の交流は続いた。耳が悪いために歩調が遅くなりがちな「ひとみ」を追い抜きを掛けたカップルが突き飛ばし、伸行が「ちょっと待てやお前ら!」とタンカを切ったり、「ひとみ」がブログ『レインツリーの国』のトップページを1か月も消してしまい伸行が「何や今度は!」とうろたえたり、「ひとみ」が面倒くさい女であることを2人で確認し合ったりした。

 「ひとみ」は伸行に連れられて、伸行の叔母の美容院へ行き、伸行が見守る中、髪の毛をショートカットにした。「ひとみ」は伸行を、おいしいお粥を出す料理屋に連れて行った。「ひとみ」は、駅の構内の隅で、「私、少しは垢抜けましたか?」「伸さんが私のことを相談した会社の女の子と比べて、どうですか?」と尋ねた。何の気なしに話ただけの「会社の女の子」にこだわる姿に触れ、伸行は「ひとみ」を抱きしめたくなった。伸行は、「君が好きや。今すぐ一生とか約束できんけど、今は君が好きで君と付き合いたい。俺のことが迷惑じゃなかったら、俺と付き合ってもよかったら、君の本名とか連絡先とか誕生日とか、色々教えて」と告げた。

レインツリーの国の読書感想文(ネタバレ)


 『レインツリーの国』は読み終わって、ラストシーンで考えてしまいました。

 クライマックスで、「ひとみ」は、「まるで周囲の誰かに補聴器を誇示するように」、「短くした髪をかき上げた」とあります。その後に、以下のようなひと段落があります。

「それはささやかな仕草だったが、無理解でひとみたちのような人間を傷つけることが多い世界に少しだけ何かを主張してやれたような気になれた」

 私が手に取った文庫本がそこでちょうど改ページされることもあり、ここで作品が終わるのだと思いました。なんとも味わい深い終わり方だなと思いました。

 しかし、しばし余韻に浸った後に何の気なしにページをめくると、次のページにまだ続きがありました。

「家に帰ったら伸にメールを書こう」
「帰りの電車の中で、髪をかき上げてやりました」
「伸はきっと誰にとは訊かずに『したたかになったなぁ』と笑ってくれるはずだった」
「Fin.」

 作品は、ここで終わっていました。

 前述の「それはささやかな…」で始まる段落で作品のラストとしては充分だと思ったので、なんで、わざわざ、付け足したのだろう、などと思ってしまいました。

 「それはささやかな…」の段落には、生まれ変わった、あるいは、生まれ変わろうと決意した「ひとみ」の姿のようなものが描かれていました。また、今後の「ひとみ」の生き様は読者の想像にゆだねたのだと思いました。さらに、余韻に浸っている間に、「ひとみ」の行動が、特定の相手(たとえば「ひとみ」を突き飛ばしたカップル)に対してではなく「人間を傷つけることが多い世界」に対してのことであり、「主張」という言葉から感じられたのは、誰かへの復讐や攻撃ではなく、強いていうなら、世知辛い世の中を生きていかなければならない自分自身に対する決意のようなものでした。「ひとみ」にとっては、ある意味、戦闘開始宣言でもあると思いました。

 同作の根底に流れるテーマのひとつに「世間の悪意」というものがあります。「ひとみ」がしゃべることができないと思って痴漢、強姦(未遂)をした男などは取り上げるにも及びませんが、「ひとみ」を取り巻く会社の人々や、突き飛ばしたカップル、無理解に「ひとみ」たちを傷つける人々などは存在します。

 しかし、「それはささやかな…」で始まる段落で描かれていたのは、「傷つける人々」に対してのことではなく、そんな世間を生きていくための「ひとみ」の内面のようなものだと感じました。奥深さを感じたのはまさに、その点だったのですが、追加で書かれた(と読者である私が勝手に思った)箇所には、「ひとみ」のそんな内面の戦闘開始宣言とでもいうものを、伸行に「髪をかき上げてやりました」という言葉で伝えたいという「ひとみ」の気持ちと、「ひとみ」が、誰かに対して怒りや憎しみをぶつけるのではなく自分自身に対して決意をしたということを、伸行なら「髪をかき上げてやりました」という言葉だけで分かってくれると思っているという現象だと思いました。

 改めてラストシーンを読み返してみると、“「誰に」ではないこと”は既に前に描かれているので、ここで繰り返しても冗長なだけだと思います。最後の最後に描かれていたものは、伸行と「ひとみ」の関係性についてであり、今後の「ひとみ」の生き様を読者の想像にゆだねて作品を終わらせることではなく、「ひとみ」と伸行の関係を明確に提示して終わらせる方を作者の方は選んだのかなと思いました。




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