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夜のピクニック/恩田陸のあらすじと読書感想文

2013年3月6日 竹内みちまろ

夜のピクニックのあらすじ


 人口20万人規模の古い町にある北高では、毎年秋、修学旅行がない代わりに、朝の8時から翌朝の8時までの24時間、昼食と夕食と2時間程度の仮眠を除いて、ひたすら歩き続ける「北高鍛練歩行祭」という学校行事がありました。歩行祭には3つのコースがあり、バスで山奥まで運ばれてから北高か、運動公園まで歩くコースと、北高を出て海沿いを歩き、円を描いて北高まで戻るコース。3年生にとっては最後の学校行事となる今年の歩行祭は、北高を出て北高に戻るコースでした。

 3年生の「西脇融(とおる)」は、高校入学前に父親が胃がんで死にました。葬儀に、かつて父親の浮気相手だった女性と、その女性と父親の間に生まれた「甲田貴子」が弔問に来ました。貴子は融と同級生で、貴子の母親は貴子を生む代わりに、融の父親との連絡を一切断ち、養育費も求めませんでした。そのため、貴子一家は、融の家とは接触がありませんでした。

 葬儀に訪れた貴子は、内心では融と仲良くなれるのではと期待していました。しかし、融は、貴子親子を、ずっとにらみ続けました。その貴子が、融が北高に入ると、同級生になっていました。1年、2年のうちはクラスが別で、融は貴子を無視し続けていましたが、3年に進学するクラス替えで貴子と同じクラスになります。融は貴子を無視し続け、貴子はさりげなく受け流していました。が、学校では、融と貴子が付きあっているのではないかという、うわさが流れていました。

 融と貴子が参加する今年の歩行祭は、金曜日の朝に始まりました。全校生徒が、校門を出ます。

 今年の歩行祭は、住宅街を出て、農村を歩き、運動公園で昼食を取り、田んぼや海岸線を歩いて、仮眠を取る北高とは別の学校施設まで歩く前半がクラスごとに二列縦隊で移動する全体行動。後半は、午前2時くらいに学校施設に到着し、2時間程度の仮眠の後に、北高まで残り20キロの距離を好きな者同士で歩く自由行動でした。北高の体操服は、夜中でも目につくように上下真っ白になっていましたが、農家の屋敷林に囲まれた田舎の田んぼ道は、隣を歩く友だちの顔が見えないほど、真っ暗になります。

 貴子は、歩行祭前日の夜、眠れませんでした。この歩行祭の間に、融に話し掛けて返事をもらうという賭けをすることにしたからでした。さらに、賭けに勝ったら、融と面と向かって自分たちの境遇について話をするように提案するという次の賭けを考えていました。貴子は、自分が賭けに勝ちたいのか、負けたいのか、わかりませんでした。

 「俺に近寄るな」オーラを振りまいていますが、クールな所が女子に人気の「融」と、マイペースですが大人びた優しさと魅力がある「貴子」をキーに、融の親友で貴子が好きな「戸田忍」、お調子者の「高見光一郎」、貴子の親友でお嬢様の「遊佐美和子」、貴子のクラスメイトで脚本家志望の「後藤梨香」、忍に想いを寄せるも告白はしないと決めた「梶谷千秋」、2年生の時の貴子のクラスメイトでアメリカに留学する前に融にラブレターを出した「榊杏奈」、2年生の初めに忍と付きあっていて歩行祭2日目に誕生日を迎える融へ歩行祭の間に誕生日プレゼントを渡すとうわさされている「内堀亮子」など、それぞれがそれぞれの思いを持ったまま、歩きます。

 最初の休憩時間のこと。忍が千秋と梨香に声を掛け、ビニールシートを敷いて、一緒に昼食を取ることになりました。融と貴子は口をききませんが、忍たちは、そんな2人には何かあると思っていました。貴子は、融が千秋たちと話をする様子を見て、嫉妬している自分に気が付きます。

 昼食後も、歩行祭は続きます。亮子が、貴子に敵意むき出しの視線を投げてきました。歩行中、女子だけの回覧が回ってきました。近所の西高(女子高)の2年生が北高3年生の子どもを堕ろしたといううわさが流れており、子どもを堕ろした女子の従姉妹にあたる古川悦子が、歩行祭の間に犯人を突きとめようと、西高の従姉妹の写真を回していたのでした。貴子は、そういったうわさ話には興味がありませんでしたが、回ってきた写真を見て、思い当たるふしがありました。忍とその西高の女子が2人で歩いていた姿を見かけていたのでした。

 「夜のピクニック」はここからが本番なのですが、読書感想文に移りたいと思います。


夜のピクニックの読書感想文


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 「夜のピクニック」は、おもしろくて、一気に読みました。歩行祭の仕組みは冒頭で紹介されていて、また設定としては、ただ歩くだけの小説とも聞いていました。実際に読んでみると、本当に、ただ歩くだけの小説でした。でも、それでこんなに感動できるんだ、と、読み終えた瞬間は、放心状態でした。

 冒頭に、融たちが1年生の時、ゴール間際でリタイアしそうになった3年生が泣きながら救助バスに乗るのを拒否し、その姿を見た1年生が、たかが歩行祭になんでそんなにこだわるのかわからないと感じたエピソードが紹介されています。読み始めの読者も同じ気持ちなのですが、読み終えると、自由歩行の間に軟式テニス部でケガをしていた足に何かが切れる衝撃を感じ、それでもなお、なかば足を引きずりながら歩き続けた融と同じ気持ちになっていました。

 印象に残ってる場面があります。「――甲田さん、そろそろ告白タイムじゃない?」と貴子にそっと声を掛けたことがきっかけで、忍と貴子が、夜中に2人で歩く場面です。亮子が融にアプローチをかけ、いつの間にか、融の隣に居座っていたタイミングでした。貴子は、忍へ「それより、あたし、分かっちゃった。戸田君が川べり一緒に歩いてた女の子」と切り返します。忍は、「うわっ。頼むよ、甲田さん、それだけは」と口止めをし、融について、「あいつには愛が足りないんだよ、愛が」と語り始めます。貴子は、今まで融に対してうまく言葉にできなかったことを、忍が的確、かつ、簡潔に言葉にしていく様子に聞きほれます。そして、一見クールに見える忍が熱く語る奴だったことが意外でした。貴子はいつの間にか、足の痛みを忘れていました。その瞬間、貴子は、「なぜか、その時、初めて歩行祭だという実感が湧いた」とあります。隣のクラスメイトの顔も見えない夜中、日常の学校生活では触れ合う機会のない同級生と、いつもなら絶対しないような話を、声と気配だけを頼りに夢中にしゃべり続ける時間というものは、ほんとうに、幸せな時間ではないかと思いました。

 また、知的でクールな美和子が珍しく、貴子に熱く語る場面もよかったです。美和子は、「やっぱりさあ、貴子は西脇君と話すべきだと思うよ」と改まった口調で迫ります。忍も「甲田さん、歩行祭終わっちゃうよ。これが最後のチャンスかもしれないよ」と声を潜めてささやきます。最後の最後で、融の隣を亮子に取られてしまった時も、美和子は、毅然とした顔で、融を取り返すために「あたしが行くしかないかしら」と亮子の背中を見つめながら、貴子に声を掛けました。

 歩くだけという歩行祭ですが、3年間の学校生活では起り得ない時間を同級生たちと共有し、そこでは、普段だったら見ることができない意外な人の意外な素顔や、いつもなら心の中にしまっておく感情が浮かび上がってくるようです。そして、それらは、隣の同級生の顔も見えない暗闇の中を、いっしょに歩き続けた者同士だけが、共有できます。そういったことが、後になって、大切な思い出になっていくのかもしれないと思いました。




→ 蜜蜂と遠雷/恩田陸のあらすじと読書感想文



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