(18)源義朝の夜討ちの進言
登場人物:信西、源義朝
源義朝が昇殿したのち、合戦の軍議となりました。義朝は進言します。
「いくさのはかりごとはさまざまなれど、たやすく敵を従えるには、夜討ちしかありません。空の明ける前に敵陣へ押し寄せ、敵よりも先手を取ることこそ、最も効果的な武勇の策。それでなくとも、左大臣・藤原頼長は権威をもって南都・奈良興福寺の大衆を呼び寄せており、その勢力は1000余騎、明日には陣に加わると聞きます」
「また、舎弟の源為朝は、父・為義の軍に加わり、崇徳上皇方へ味方しています。やつは合戦の道においては最も勇ましい者ですが、為朝を従えて攻められれば、例え百万騎の兵を差し向けても、たやすくは防げないでしょう。例え楯に鉄をはったとしても、為朝の矢にはかないません。そのうえ、敵が寄せて来るのを待ち、日を延ばせば、人馬が疲れ、軍が弱くなります。なので、この御所は清盛にでも守護させてください。義朝は時をおかず、夜中に院の御所に押し寄せ、勝負を決します」
義朝がそう告げると、信西が答えました。
「詩歌管弦は臣下のたしなみ。その通をもって暮らすべきだ。ましてや、武道においても同じこと。合戦の次第については、ひとえに貴殿を頼みとする。故事に、『人に先駆ける者は人を制し、遅れを取れば人に征服される』とある。敵の先手を取ることが肝心。急ぎ、出陣せよ。重ねてまた、貴殿には東国の勇者たちがたくさん従っていると聞き、そのことは後白河天皇にまで話が行っている。感心されているに違いない。義朝に味方が多く従っていることは、天運に違いない」
「それ、君のために功をたてようとする時は、必ず、志のある者が大将になる。勝とうと思えば兵を愛し、将軍が天皇に頼りにされ、兵たちは将軍を頼りにする。例えば、身体はひじを頼りにし、ひじは指を頼りにすることと同じ。貴殿が知らないはずはなかろうが、朝敵となった者は天の責めを被る。なぜなら、朝廷の威光を軽んじるからだ。すみやかに朝敵を成敗し、後白河天皇のお心をやすらかにし、かつ、抜群の忠義を尽くし、莫大な恩賞を得るのだ」
信西がそう告げると、義朝は畏まって承り、退出しました。信西の命令も、義朝の返答も、みなが耳をすませて聞きました。たいへんなこととうわさされました。
2012年7月23日
