BackGround−04メレンカンプと魔都に所縁深き者たち



「この俺を疑うのか、ハーディン? 俺の力を疑うと!?」
「このオレが大丈夫だといっているんだ。わかるな?ハーディン。すべて、大丈夫だ」
「お前の記憶は偽りだ。VKPによって後から刷り込まれたニセの記憶なのだ」

 カルト教団メレンカンプの首謀者。素肌を曝した背中にはヨクス教の聖印『ホーリーウィン』を逆位置に刻み込み、金属性の爪を鳴らしながら多くの人々を魅了していく自称預言者。初対面の相手の記憶を平然と読み、不可思議な力でその心を魅了していく。
 宗教集団の首謀者という立場は隠れ蓑で、バルドルバ公爵のダークサイドを受け持つ闇の存在が彼の本質。その事実は議会や法王庁にも知られており、バルドルバ公爵ともども警戒されている。
 バルドルバ公爵邸占拠事件にてアシュレイに心臓を射貫かれたが、当然のように立ち上がり、“不死”の力を見せつける。それどころかアシュレイの目前にワイバーンを呼び出し、時間稼ぎに使ってレアモンデへ逃走した。
 「他人の記憶を読み取る」「思念を相手に刷り込む(強制暗示)」「幻影を見せる」など数々の能力を持つ。彼は障害の聖印騎士が現れたときには暗示をかけて自害させるが、何故かアシュレイだけは殺そうとはせず、謎の執着を見せる。一定の周期を以って召還した魔物をけしかけるのも、相手の実力を見越しての「ぎりぎり倒せるくらいの障害」を用意している程度でしかない。
 アシュレイに執着する以外にも、メレンカンプ首謀者として親友のハーディンと共に、何かを探してレアモンデを探索する。拉致したエージェント・メルローズにも傷を与えることなく、ただ適当に死なないように護衛しながら付き添わせている。自分を正しいと確信しているのか、あるいは迷いが無意識のうちに理解者を求めているのか――
“真の不死”を手に入れ謎の行動をとるメレンカンプ首謀者
シドニー=ロスタロット

「哀しいな。それでは人の命の重みが無い」
「この街を貴様にやろう! 全ての力を貴様に託そう! だから早く来い、この高みまで!」
「・・・すまない、アシュレイ」

 シドニーは、バルドルバ公爵の息子として生を受けた。幼少の頃に死の淵をさまよう体験をし、四肢を失いながらも公爵が“魔”と特殊な契約(公爵の余命分だけの寿命を得る)を交わしたことで復活した。以後、彼は両手両足を義足で補い、父の暗黒面を補う役として、親子というよりは取引をした傭兵程度の付き合いをしていた。
 公爵の死が近付いてきた時、シドニーは彼に“魔”を利用してでも永らえることを頼み込むが、それを拒絶された彼は単身で強攻策を講じる。公爵邸占拠事件からレアモンデへ。自ら“魔”の支配者になろうと儀式の場(大聖堂)へ向かうが、親友のハーディンや弟のジョシュアを生け贄にすることを躊躇した彼は、次第に“魔”への欲望を持たないアシュレイに全てを託そうと考え始め、“魔”の感染を促進させるためアシュレイの実力に見合った魔物を召還していく。
 ローゼンクランツを殺し、胸を刺され“不完全な死”へと近付いていくハーディンを、メルローズや弟と共に魔都の出入り口にまで転移させる。背中にあった魔力の源、そして後継者の儀式に必要な“鍵”でもある紋章『血塗れの罪』をギルデンスターンに剥ぎ取られ、アシュレイに、ギルデンスターンを倒し、“魔”を望む者からレアモンデを守ってくれと頼んで倒れる。
 1週間後、シドニーはアシュレイの助力を経て(魂だけ)公爵の元を訪れる。最期を父の手で迎え、彼は昔の契約に則り父と共に死を迎えた。彼が完全な死を迎えたのか、それとも不完全な死を漂うのか――それはアシュレイだけが知る事実である。



「す、すまんシドニー。そんなつもりじゃあ・・・・」
「親友だったら俺に2度と“意識”を押しつけるな」
「それに、あいつが俺に嘘をつくものか」

 メレンカンプ教団幹部でシドニーとは親友と認め合った仲。彼にとってメレンカンプは宗教集団と言うよりはむしろ腐敗した社会に抵抗するための反体制派組織である。シドニーにもそのカリスマに憑かれたわけでもなく、あくまで親友として協力している。
公爵邸占拠事件に際しては、人質の処遇など重要な分野においての指示まで行っていた。「人質を見せしめに殺す」と言ったのはけして彼が残忍な性格だからではなく、富裕階層の人々全般をハーディンが憎んでいるかららしい。本来の彼は仲間には優しく、強面に似合わずシドニー以上に部下のことを思いやっている。
 シドニーが公爵の息子であるジョシュアを誘拐した後、その身柄はレアモンデ探索中はハーディンが預かることになった。またレアモンデ入り口でシドニーがアシュレイへの人質として捕縛したキャロ=メルローズもハーディンに同行する。
 彼らの目的はレアモンデにあるはずの何かを発見し、最終的にはレアモンデそのものをシドニーの手中に収めることらしい。彼らはその何かを“鍵”と呼ぶが、詳細は定かではない。
シドニーを信頼し組織の副将を務める親友
ジョン=ハーディン

「・・・なぜ? なぜだ? 俺たちは一体なんのために・・・」
「公爵を・・・親父さんを助けたかったんだよな?」
「・・・やっと喋ったな。怖い思いをさせて、すまなかった・・・」

 レアモンデの“後継者”となる為に不可欠な鍵『血塗れの罪』を探しながら大聖堂へ向かう。途中、キャロはハーディンの心を読む力を手に入れてしまった。バルドルバ公爵の死期に伴い、レアモンデを奪おうとする目的が露呈されるだけではなく、キャロはハーディンの心の中、更に深いところにある弱みを見透かそうとする。
 シドニーを信頼し、疑惑が浮かんでもすぐ無理に忘れようとするハーディンに、キャロは「シドニーが何か嘘をついている」と断言する。また、シドニーの言葉を信じるのは信頼関係によるものではなく、結局はシドニーの言葉を信じることが、信頼の証になどならない、彼の言葉が真実であるか否かは誰にもわからないと彼女は言う。ハーディンはそれを否定する。あいつが俺に嘘をつくものか、と。
 また、ハーディンの被害者としての過去もキャロはついてきた。昔亡くした弟へのイメージをジョシュアに投影し、優しくして失った時間を取り戻そうとする彼に、キャロは言う「そんなことをしても弟は帰ってこない」と。弟を失った俺の気持ちがわかるものかと追及を拒絶するハーディンに彼女はまたも切り返す――弱者のフリをしたって悲しみは消えないし、自己を正当化することもできないと。ハーディンは返す言葉を失い、キャロを殴りつけようと――
 この直後、2人とジョシュアのいた大聖堂にギルデンスターンがやって来る。ハーディンに暗示をかけ、“鍵”についての情報を聞き出す。『血塗れの罪』の意味をギルデンスターンが解き明かした。シドニーの背中の入れ墨。シドニーは既に鍵を持っているにも関わらず“後継者”儀式を行わず、またハーディンにも隠していた。公爵邸を占拠した理由は一体、なんだったのか。ギルデンスターンに刺され、倒れた後にシドニーがかけつけた。
 シドニーが、ハーディンたちだけでも逃がそうとしていることに、ハーディンは光明を見出した気がした。公爵とシドニーが親子であることを知っていたハーディンは、シドニーが、本当は父を助けたかったのだと気付いた。
 崩れ落ちる魔都を抜け出した時、ハーディンには“不完全な死”だけが残されていた。キャロが自分を見下ろしている。失語症だったはずのジョシュアが、ハーディンの死を悲しみ、やっと喋ってくれた。怖い思いをさせて済まなかったと言葉を残し、ハーディンは消滅する。最後に見せた彼の微笑みは、失った時間を取り戻せたことによる幸福の証だったのだろうか、それともかつて失った傷を恐れず見つめられるようになったことへの達成感の証だったのか――




「シドニーはワイバーンを用いたのだ。あれを見た者を生かしておくわけにはいくまい」
「あれはわしの魂だ。しなせるわけにはいかん」
「・・・生きながら腐るとは我のことか」

 旧バレンディアの内戦を終わらせた英雄であり、戦功が権力に直結する国家評議会ではかなりの権力を握っていた元議会構成員。現在は健康都合を理由に引退しているが、議会に対して干渉しようとすれば思いのままに操れるだけの影響力を持っている。
 また公爵は、病床にありながらもバレンディアの暗黒面を管理する人間でもあり、カルト集団メレンカンプにも援助している。メレンカンプが根城とするレアモンデとも関係があり、どうやらレアモンデに干渉する者たち全般とは敵対関係にあるようだ。
 公爵にはジョシュアという息子がおり、社会的な彼の立場からは想像できないほど愛情を注いでいるらしい。
王国の闇の歴史をつかさどるフィクサー、そしてレアモンデの全てを持つ男
アルドゥス=バイロン=バルドルバ公爵

「わしらの役目は終わりだ。あとはアシュレイという男に任せるとしよう」
「わかっている、あとはお前だけだな」
「お前には親らしいことをしてやれなんだ・・・すまない、シドニー」

 レアモンデの全てを支配する古代魔術士メレンカンプの現“後継者”である公爵は病に伏せり、寿命はあと僅かだった。法王庁と議会は公爵に代わりレアモンデを治める手段を模索している。“魔”を悪用しようとする者にレアモンデの膨大な“魔”を明渡すわけにはいかなかった。誰にも後を継がせずに息を引き取り、魔都にも消えてもらう、それが公爵の目的。“魔”を使って寿命を延ばすこともできたがかつての支配者たちのように彼はそれを望まなかった。天寿をまっとうする――公爵は“魔”の流出を防ぐために、レアモンデを支配していたのだ。
 公爵には、ジョシュアとは歳の離れた長男がいた。名をシドニー。かつて瀕死になったシドニーを、公爵は“魔”との契約によって仮初めに生かすことにした。公爵とシドニーは死の刻を結び付けられる。四肢を失い未来も失った“不死者”シドニーは、公爵の息子ではなく闇方面でそのサポートをするエージェントとしてメレンカンプを組織、公爵を支援していた。
 父を案じたシドニーは、公爵に“魔”を利用してでも生き延びる決心をさせるため説得を試みるが失敗。シドニーは自ら“後継者”となり父を無理矢理にでも生かそうとしたが、法王庁や議会の介入によって、結局シドニーは“魔”に魅せられることの無かったアシュレイというVKPのエージェントを“後継者”に選び、その歩みを止めた。
 1週間後、シドニーは背中の『血塗れの罪』を失いながらも公爵に会いに来た。最後の刻を共に。父として何もしてやれなかったと公爵は謝罪し、シドニーの胸に刃をうずめた。それは、公爵自身が自らの寿命にピリオドを打つことと同義であった。




「――」
「――」
「――」

 公式に認められている公爵の1人息子。バレンディアの闇を支配する公爵にとっては唯一のアキレス腱と言える。
公爵邸占拠事件の際に、母親や使用人ともどもメレンカンプに人質とされたが、公爵がジョシュアを溺愛していることを知っていたシドニーの判断で、捕らえられたままレアモンデに向かった。これによりアシュレイはただの犯罪者殲滅とはまた別の理由でレアモンデに急がねばならなくなり――またこれはバルドルバ公爵に対して、ある要求をするに際しての切り札として考えられていたから、とも考えられている。
公爵邸占拠事件の騒動にてショックを被ったらしく、一時的な失語症に陥っている。
失語症に陥りながら魔都を案内される公爵の息子
ジョシュア=コリーン=バルドルバ

「――」
「――」
「ダメ! ハーディン、ここにいて! いっちゃダメ!」

 ジョシュアは魔物たちを何度も見て怖い思いをしたが、ハーディンが優しくしてくれるので辛くはなかった。最初は知らなかったが、公爵邸を攻撃していたのがハーディンであることも後になってわかってくる。だがやはり恐ろしくはなかった。
 レアモンデでの体験は、まだ幼いジョシュアにはわからないことだらけで何かを学ぶどころではなかった。キャロとハーディンが言い合っているときにもその意味はジョシュアにはわからなかったし、わかったのは――鎧を着た男がやってきて、何かの尋問をハーディンに行ったということ。何かの言い争いの後、ハーディンはジョシュアを見つめた。ジョシュアはハーディンの心配をして、出せもしない声で叫ぶことしかできなかったが、何か――自分がハーディンに助けを求められていることには気付いた。直後、鎧の男はハーディンを刺し、続いて現れた痩身の男によってジョシュア、ハーディン、キャロは魔都から脱出した。直後に、ハーディンの肉体は消滅した。
 ジョシュアはハーディンの死を悲しみ、キャロにすがって泣いた。ただひたすらに悲しい――何が起こったかもわからない。何故ハーディンが死ななければならなかったのかもわからない。だがそれがとても辛いことだったとだけ、少年は感じていた。