マイ・フェイバリット・アルバム<2006年新譜>

 昨年も音楽を聴く時間は殆んど通勤時間の往復の電車の中だけでした。一昨年よりは時間的な余裕が多かった筈ですが、家にいるときにはパソコンをいじっている時間が多くなった様な気がします。(ゴロゴロかな?)
 昨年は積極的に新しいアーチストを買い漁ることをしなかったため、毎度お馴染みのアーチストだけですね。今年は積極的に新しいアーチストをも聞いていきたいと思っています。と言う事で、以下のアルバムが昨年発売の新譜の中で気に入った作品です。
 リストの順番は、今年は順不同。シャンルやカテゴリーで纏めた感じになっています。

Chris Cheek この Chris Cheek というテナー奏者は、お声が掛かればどこでも演奏しますよというタイプのミュージシャン。そのため、数多くのレコーディングセッションに参加しています。どちらかと言えば、呼ばれたセッションではパワー全開で吹きまくりってな感じの演奏が多いようです。
ところが自分のリーダー作となるとかなり雰囲気が異なるのです。パワフルなプレイは影を潜めるのですが、テナーサックスという楽器をフルに活かした演奏を聞かせてくれます。ここでは、旧 Brad Mehldau Trio のメンバーをバックにちょっと変わったスタンダードナンバーを演奏。その歌い上げ方は見事ですね。
Marcus Strickland 個人的には現在最も注目しているテナー奏者、Marcus Strickland の新譜は自身のレーベル Strick Muzik からのリリースで2枚組みで登場です。1枚目と2枚目でメンバーが異なるため普通の2枚組みというよりも、2枚の別の作品と言ってもいいような感じです。
1枚目は Robert Glasper が参加したカルテットによる作品です。1曲目のみ、彼自身が影響を受けた一人である Wayne Shorter の Oriental Folk Song を取り上げていますが、それ以外は Marcus によるオリジナル。どちらかといえばこれまでのFSNTの作品の延長線上。2枚目は今話題のギタリストである Lage Lund を迎え、ベースの方もエレクトリックの Brad Jones が参加と、バンドの構成を見ても大きな変化があります。
Eli Degibri イスラエル出身のテナー奏者、Eli Degibri のFSNTにおける2枚目の作品。デビュー作と殆ど同じメンバーで演奏されているのですが、雰囲気が随分と違うのは Kurt Rosenwinkel 不参加のためか。この作品は随分と親しみやすいサウンドに仕上がっているのではないでしょうか。前作では All The Things You Are を斬新な切り口で演奏していましたが、ここでも Giant Steps は意表を突いたスローな展開で上手く調理してくれています。
1枚目アルバムでは、Herbie Hancock の推薦文が記載されていましたが、Herbie の元での演奏はDVDが発売されているようです。動く Eli を見てみたいものですね。DVDは日本でも発売されているのかな?
David Smith テナーサックス奏者が3人続きましたが、やはりこの人を忘れる訳にはいきません。ジャズから離れかけていた私が再びジャズにのめり込みようになったのは Seamus Blake の演奏にであってからなのです。という事で Seamus Blake 絡みの作品です。(昨年は、Seamus Blake のリーダー作は発売されませんでした。)
先ずは、カナダ出身のトランペッター David Smith のデビュー作。David は、それ程有名なバンドでの活動は無いようです。そんなミュージシャンでも音楽的に素晴らしいものを持っていれば、リーダーとしてレコーディングの機会をあたえてくれるのがヨーロッパのマイナーレーベルである Fresh Sound New Talent の素晴らしいところ。私の感性が Executive Producer の Jordi Pujol とあうのでしょうか? 外れが少ないレーベルの一つなのです。どちらかと言うとマイナー系のサウンドが似合うトランペッターで、殆どがミドルテンポ以下の楽曲で占められています。たとえて言うならば、Kenny Dorham の現代版というところでしょうか?Seamus 君もどちらかと言えば、抑え気味の演奏です。
続いては、Seamus 君が行動を共にすることが多い David Kikoski の Criss Cross における7枚目の作品です。ここ暫くは、Jeff 'Tain' Watts と共演する事が多かった Kikoski は、前作のトリオで新たに Bill Stewart をドラマーとして迎え、ベースは Larry Grenadier という、Pat Metheny Trio の組み合わせとなっています。しかも、この二人は Seamus のデビュー作にも付き合っていた二人なのです。こんなメンバーが集まった作品が悪いはずないですよね。
David Kikoski
Mike Stern Mike Stern はワンパターンを絵に描いたような人なのですが、一度ハマッテしまうと、もう抜け出せないというのも事実です。この作品でもワンパターンのオンパレードとなっています。毎回同じ戦法で攻めると飽きられるというのも承知済みなのか、直球勝負に加えて微妙な変化球を交えてくるのが最近のやり方ではないでしょうか。ベース奏者は、Meshell Ndegeocello や Chris Minh Doky などを迎えていますし、ドラムは多くの曲を Kim Thompson が担当しています。彼女は、期待の新人ではあるのですが、Beyonce のサポートメンバーとして活動を始めたそうで、Mike が気軽に声を掛けることが出来なくなったそうです。昨年の前半は、彼女が Mike のバンドでドラムを担当していたのですが、後半は主に Lionel Cordew が担当していたようです。
Pat Metheny & Brad Mehldau Bill Evans と Jim Hall のデュオ作品の Undercurrent の2006年版とも言える作品です。Brad Mehldau は Bill Evans の、Pat Metheny は Jim Hall の流れを汲むミュージシャンとして有名なので、どうしてもこの名盤を連想しないわけにはいきません。特に Pat のギターは Jim Hall から如何に影響を受けているかが手に取るように解るものとなっています。
しかし40年以上と言う時の隔たりは大きく、この作品は如何にも今風に仕上がっています。全編デュオではなく、2曲において、Pat Metheny Trio と Brad Mehldau Trio で活躍中の Larry Grebadier と、新しく Brad Mehldau Trio に参加した Jeff Ballard が加わりカルテットによる演奏となっています。おまけに Pat はカルテットの演奏で、シンクラビアまで駆使。デュオの曲でも生ギターの使用や、リズムパターンも従来のジャズのフォーマットに頼らず新しいものを創造しようという姿勢が強く表れています。
個性のぶつかり合いとなった作品ですが、サウンドカラーを自由に変えられる Pat の支配力が強いように見えますが、よく聞いてみると Brad のペースで進行しているようにも思えます。
中島美嘉 この3枚(中島美嘉さんの作品は、CDとDVDなので、共通の作品と捉えるべきでしょうか?)の作品の共通点は、ニュー・オーリンズの重鎮である Allen Toussaint が関わった作品であるということ。しかも、ハリケーン・カトリーナの救済からのレクイエム・アルバムであるという共通点もあります。中島美嘉さんのシングル All Hand Together には、願いが込められたオリジナルのミサンガがCDに封入されていました。
中島美嘉 〜 Allen Toussaint と Elvis Costello 〜 Allen Toussaint という二組が日本において見事に合体。夢のような組み合わせが実現したのです。昨年の5月に行なわれた、ニュー・オーリンズのジャズ・アンド・ヘリテージでもステージを共にした Allen と Elvis が来日してコンサートを開催。そのコンサートのサプライズ・ゲストとして招かれたのが中島美嘉さんであったそうです。チョット残念だったのは、このコンサートは Elvis と Allen のアルバムのプロモーションのためのイベントで一般に公開されたものではなかったそうです。それ故に私も、このコンサートのことを知ったのはテレビの芸能コーナーに於いてでした。
ニュー・オーリンズの復興はテレビを通して伝えられてきていますが、実際のところは表向きの部分のみだそうです。深刻な事実として、カトリーナの被害以前と比べると比較的裕福な階層であると言える白人の比率が一気に高くなったそうです。果たして、ニュー・オーリンズが元の状態に戻る日はやってくるのでしょうか?

がんばれニュー・オーリンズ!
がんばれ Elvis Costello!
がんばれ Allen Toussaint!
がんばれ中島美嘉!

まだ見ぬ憧れの地、ニュー・オーリンズ。飛行機嫌いの私がこの土地を訪れることはあるのでしょうか?
中島美嘉
Elvis Costello
山中千尋 お次は4枚まとめて一気に。
最近のジャズ界は女性陣の台頭著しいものがあります。私がジャズを聞きだした頃にも、女性のプレイヤーはいましたが、活動の範囲は限られたものでした。当時はアメリカで活動中の穐吉敏子さんをはじめ、日本では高瀬アキさんや橋本一子さんといったピアニストが活躍されていました。レコーディングは少なかったものの、ライブハウスで大暴れの清水くるみさんも凄かったですね。
今や、日本の女性ジャズミュージシャンはピアノに限らず色々な楽器で、幅広い活躍を内外で行なっているのです。これらの4枚の作品も、全て海外で現地のミュージシャンとの共演を捉えた作品です。

先ずは、現在ニューヨークで活動中の山中千尋さんから。大阪の澤野工房で3枚のアルバムとDVDをリリースした後に、Universal へ移籍。名門レーベル Verve への移籍第一弾となった前作の Outside By The Swing は、どうも私にはしっくりと来ない作品でした。今回のメンバーは澤野後期の Larry Grenadier とJeff Ballard の黄金のメンバーが復活。ピアノトリオとしてのバランスや彼女の魅力を如何なく引き出していると言う点から見ると、相性はこのメンバーの方が上のように思えます。澤野時代に比べるとパワフルでレンジの広いピアノを聞かせてくれています。

次に、大阪代表の西山瞳さん。2005年の「横濱ジャズプロムナード・コンペティション」にて優勝という栄冠に輝きその名前も一気に全国へ知れ渡り、満を持してのメジャーデビューです。Enrico Pieranunzi の影響を受けている彼女のピアノは、フォービートのジャズとは一線を画するヨーロッパのテイストが溢れるサウンド。内省的になりがちな欧州系のサウンドの中に、非常に切れ味鋭いフレーズが大胆に散りばめられており、西山瞳の世界が既に完成しています。個人的に最も好きなスタンダードナンバーである All The Things You Are でさえも、「あれっ、この曲はなんだっけ?」と思ってしまうほどでした。

お次は、サックス代表の矢野沙織さん。16歳でCDデビューした矢野沙織さんも、昨年オトナの仲間入り。二十歳の誕生日よりひと足早くリリースされたアルバム。こんな豪華な二十歳の記念(10代最後の記念かな?)を残す事ができる矢野沙織さんは幸せですね。この作品はワンホーンのカルテットから5管の九重奏団までバラエティに富んだもの。素敵なオジサマ達に囲まれても全く臆することなく対等に渡り合っている彼女の姿はとてもたくましいですね。

最後は、京都出身で現在ニューヨークで活躍中の早間美紀さん。ピアニストとしての本領を最大限に発揮出来るピアノ・トリオによるフォーマットでのリリースです。これまで聞いてきた早間美紀さんからは、どちらかと言うとピアノ・トリオによる演奏は想像しづらいものであったため嬉しい限りです。一曲目の Sam Rivers の Beatrice が始まった瞬間、思わずニンマリ。これまでの彼女とは全く異なったアプローチの演奏を聞かせてくれます。北川潔さんに Eric McPherson という、理想的なメンバーのサポートを受けて、これぞ2006年のピアノ・トリオという演奏を聞かせてくれます。このアルバムを聞けば、今のニューヨークのジャズシーンを 100% 感じ取ることが出来ます。
西山瞳
矢野沙織
早間美紀
これらの文章は、既発表のブログからも引用しています。(^^;)

アルバムの詳細を知りたい場合や購入したい人は、ア-チスト名やジャケットをクリックしてください。


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