25回 ウイルスVirus)と細菌−トリ・インフルエンザ

1.ウイルス(ろ過性病原体)とは何か

1884 チャールス・チャンバーランド(仏、ルイ・パスツールの共同研究者)

 バクテリア(細菌)をろ過して除去するためのセラミック製フィルター、

 バクテリア・フィルターを開発

1880年代、ヨーロッパ

 緑の葉に黒い斑点ができるタバコモザイク病が流行

 マーチナス・ベンジャニック(オランダ)はこの病気の原因物質を解明

 するため、タバコモザイク病のタバコの葉をすりつぶし、その希薄溶液を

 バクテリア・フィルターでろ過したろ液がタバコモザイク病を引き起こす

 ことを発見。液をいくら薄めても病気を引き起こす能力が変わらないこと

 から、ベンジャニックは病気の病原体を単なる物質ではなく生物だと断定し、

 原因らしき物質を、タバコモザイクウィルスと命名(1898

1898

 口蹄疫ウィルス発見(F・レフラーとP・フロッシュ)2001、英で大流行

1900年代

 黄熱病ウィルス発見(野口英世は黄熱病で死亡)

1935

 ウェンデル・スタンレー()

 タバコモザイクウィルスの結晶化に成功。生物か否か?

1950以降色々なことが解ってきた

 数100を越えるウィルスが発見された

 ウィルスの遺伝物質にはDNARNAの両方がある

 ウィルスは生物に寄生してしか生存できない生物(物質)。

 

最近話題になったいろいろなウィルス

 HIVウィルス、トリインフルエンザウィルス、口蹄疫ウィルス、

肝炎ウィルス、ウエストナイルウィルス、新型肺炎(sars)ウィルス

 


2.ウイルスの構造と種類

 遺伝子とそれを包むカプシドというタンパク質からなる物質、高級なものは

その外側をエンベロープという脂質の皮膜が覆っている。

大きさは2040nm、最大でも300nm 程度。

 

下等なウィルス

高等なウィルス

構造

カプシドのみ

カプシドとエンベロープ

アデノウィルス

ピコナウィルス

ポリオウィルス

B型肝炎ウィルス

ヘルペスウィルス

コロナウィルス

インフルエンザウィルス

レトロウィルス

特徴

有機溶剤にも強い

有機溶剤で感染力失効

 

3.インフルエンザウィルス

a) 3種類のインフルエンザウィルス

 

A

B

C

症状

最も重い

やや重い

普通の風邪程度

抗原

(遺伝子)

変化しやすい

やや変化しやすい

あまり変化しない

H

多彩

あり

あり

N

多彩

あり

なし

ホスト

トリ、ブタ、ヒト

ウマ、クジラ他

ヒト

 

ヒト

 

以下ではヒトにとって最も危険なA型インフルエンザについて考察する


b)  A型インフルエンザウィルスの構造

c) ヘマグルチニン(H)Hemagglutinin

 A型ウィルス1個当たり500個あり3個で1ユニット(170ユニット)

 このスパイク状タンパク質が生物の細胞表面のシアル酸に吸着する

 A型ウィルスでは、H 1番〜15番の種類がある。毒性の強さに関係

 

d) ノイラミニダーゼ(N)Neuraminidase

 A型ウィルス1個当たり100個あり4個で1ユニット(25ユニット)

 このスパイクは細胞から離れるときや、また新しくできた多数のA

 ウィルスどうしの連結を切る役割をする

 A型ウィルスでは、N 1番〜9番の種類がある

 

HNは潜望鏡のようにウィルスの内部と外部に通じている。

H15種類)とN9種類)から A型ウィルスには135 種類が考えられ、

H5N3型、H3N2型のように区別される。

 

e) A型インフルエンザ感染動物とスパイクの種類

カモ

H1H15N1N9 すべて

水禽類(水鳥)が本来の宿主と

思われる。無症状

ニワトリ

H17910N1247

H5H7'に強毒のものあり

ヒト

H1N1H2N2H3N2

H5N1H9N2) 

最近のH5 は強毒

ブタ

H1N1H3N2H4N6

H1N1H3N2 はヒトから、

H4N6 はトリから感染したと推定

ウマ

H3N8H7N7

 

アザラシ

H3N3H4N5H4N6H7N7

 

クジラ

H1N1H13N9

 

ミンク

H10N4

 


4.A型インフルエンザ・ウイルスの型と8本のRNA

a) A型インフルエンザの型

A型ウィルスの型は「抗原−抗体反応」呼ばれる反応を利用して決定する。

すでに抗原H1H15、と抗原N1N9のすべての交代は作成されている

新しいウィルスをこれらの抗体と混ぜると型に該当するものだけが沈殿する。

あるインフルエンザ・ウィルスがこのいずれとも反応しないならば、それは

新しいウィルスである

 

b) 8本のRNA

ヒト、トリ、ブタを問わずA型インフルエンザウィルスは8本の独立した

遺伝子(RNA)を持っている。これを8個の分節という。

RNAは1本鎖のマイナス鎖で、それが転写された相補鎖のプラス鎖のRNA

からタンパク質が合成される

8本のRNA とコードされているタンパク質

 分節13 RNA合成転写酵素

 分節4   H(ヘマグルチニン)

 分節5   ウィルスの核酸と結合する核タンパク

 分節6   N(ノイラミニダーゼ)

 分節7   M1M2 タンパク(膜のタンパク)

 分節8   NS1NS2 タンパク


5.ウィルスの進入と増殖

a)ウィルスの侵入と発症

@ ウィルスが侵入門から侵入

A ウィルスが標的臓器に移動

B ウィルスが標的臓器の細胞に感染

C ウィルスの増殖

ウィルスは寄生した細胞が増殖し、多数の細胞が死滅すれば組織にダメージ

が発生し、限度を越えるとその臓器が本来の役割を果たせなくなる。(発症)

 

b)ウィルスの増殖


6.インフルエンザ・ウイルスの突然変異:抗原ドリフトと抗体シフト

遺伝子組み換えには1分節のある部分が混ざり合う抗原ドリフトと、

分節全体が入れ替わる抗原シフトがある。

 

次図はヒト・インフルエンザウィルスとトリ・インフルエンザウィルスが

ブタの粘膜細胞に侵入し、新たにウィルスが作られるときに抗原シフトが

起こる様子を示している。

 


7.ワクチンと新薬

a) 免疫について

 ヒトは一度“はしか”にかかると二度と“はしか”にかからない。これは

最初の感染で一生にわたる免疫を得たためである。生体は一度かかった病気

を覚えている。

 

抗原:感染症の病原体の総称。ウィルス、バクテリア、きのこなどの菌類

抗体:特定の抗原と結合するタンパク質(免疫グロブリン)

免疫:生体が自分と他を認識し、自分以外と認識したものを排除する反応

 

b) サブユニット・ワクチン

 大量の孵化卵にウィルスを注入し、数日放置するとウィルスが増殖する。

これを取り出しウィルスだけを分離し濃縮する。

 次にウィルスからRNA、カプシド、などを取り除きヘマグルチニンだけ

を集めたものをワクチンとする。このようなワクチンをサブユニット・ワク

チンという。

このようにして作ったワクチンによって生体にはヘマグルチニンに対する

抗体ができ、これがウィルスのヘマグルチニンを捕まえてしまえば感染は

起こらない。

 

c) ワクチンの製法

 ワクチンを作ることの律速段階は大量の孵化卵を準備するところなので、

細胞にヘマグルチニンやノイラミニダーゼを作らせようとする試みがある。

 RNAの第4番がH(ヘマグルチニン)、第6番がN(ノイラミニダーゼ)

タンパク質の合成に関係しているが、この遺伝子をタンパク質を効率よく

生産するウィルスに挿入するとウィルスがそれらを大量生産してくれる。

また、リング状DNAプラスミドに第4、第6 RNAを組み込んで、これを

皮膚や筋肉に注射する動物実験もされている。注射された皮膚は HN

自ら生産する。免疫システムはこれを異物と認識し、抗体を発生させる。

 


d) ノイラミニダーゼの働きを阻害する物質

ノイラミニダーゼは4つで1組のスパイク状タンパク質である。

感染はまずヘマグルチニンが細胞表面のシアル酸に付着することで始まる。

ウィルスが増殖し出芽する際に、ウィルス表面のシアル酸に他のウィルスの

ヘマグルチニンが付着するためにウィルスどうしはつながっており、これが

切断されるとウィルスは自由になりさらに増殖を続ける。この切断に関与す

るのがノイラミニダーゼである。

ノイラミニダーゼは次のように溝の部分にシアル酸を取り込み、そして

シアル酸を切断すると考えられる。

なお、シアル酸は N−アセチルノイラミン酸(N-acetyl-neuramic-acid )で、

ノイラミニダーゼはノイラミン酸を分解するの意。

e) 抗インフルエンザ薬

ノイラミニダーゼを阻害薬

○ザナミビル(商品名リレンザ)

イオン性のためスプレーで気道に直接注入する。ion性のため細胞膜を

通過できない→錠剤として服用しても無効

○リン酸オセルタミビル(タフルミルカプセル、タミフルCap GS4071

GS4071 はイオン性で、このままでは血中に入らない。そこで類似の 4041

合成されたが、これは肝臓で GS4071 に変化する。現在これがよく使われる

 

他に、M2タンパク阻害剤の「アマンタジン」などがある