今や『刑務所の中』のベストセラー+映画化ですっかりメジャーな漫画家になってしまった花輪和一に『玉の価はかりなき事』という作品がある(青林堂刊《赤ヒ夜》所収)。これを初めて読んだ時、
「まるで『スペース・バンパイア』じゃねえか」。
と驚いたものだ。
舞台は例によって平安時代。或る貴族の男が、故あって知り合った女と関係を持つ。ところが、その女は実は「人間の愛とか恋とかいうものを体験」するためにやって来た宇宙人(たぶん)で、最後に人間とは異なる正体を晒して、
「アホみたいね。愛とか恋なんて.....」。
と云い残して、宇宙船(たぶん)に乗って去って行く。
その時、主人公は猛烈に後悔するのだ。
「あああっ。私は化物と.....化物とやってしまったあ」。
私はこのコマで吹き出してしまった。いかにも花輪和一らしいユーモアである。
で、『スペース・バンパイア』も、ほぼ、そういう話なのである。
「生命力」を主食とする宇宙人が、大宇宙にトラップを仕掛けて待っている。彼らは引っ掛かった獲物の「理想の異性」に姿を変える能力を有しており、
「いい乳だ」。
と感激した人間の船長さんは彼女を地球に持ち帰る。そしたら大変なことになってしまいましたあ、という物語。
だけど、最後に正体がバレる。ボインちゃんは実はコウモリだったのだ。
「あああッ、私は化物と.....化物とやってしまったあ」。
と後悔した主人公は、ボインちゃんと心中してケジメをつけるのであった。
なお、花輪和一氏は「宇治拾遺物語」から材を得ているのでパクリではない。発表も『スペース・バンパイア』よりも早い。念のため。
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