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フェイズ IV
PHASE IV

米 1973年 84分
監督 ソウル・バス
脚本 メイヨ・サイモン
出演 ナイジェル・ダヴェンポート
   マイケル・マーフィ
   リン・フレデリック


 ソウル・バスと云えば有名な商業デザイナーであるが、我々にはむしろヒッチコック作品のタイトル・デザイナーとして知られている。マイク水野が「シベ超」でパクった『北北西に進路を取れ』がそうだし『サイコ』もそうだ。
 そのバスが巨匠ヒッチコックにイチャモンをつけた。
「『サイコ』のシャワー・シーンを監督したのは俺だ」
 と云い出したのである。『フェイズIV』のプロモート中でのことである。
 これには多くの評論家が驚かされた。中にはすっかり信じてしまって、『サイコ』の監督欄を
「監督:アルフレッド・ヒッチコック(ソウル・バス)」
 と訂正した評論家もいたそうだ。しかし、バスのイチャモンは、多くのスタッフを始め、当のジャネット・リーからも、
「どうしてそんな嘘をつくのかしら?」
 と完全否定されてしまっているので、今日では信じている人は皆無である。そんなわけで、面目を失ってしまったバスであるが、まあ、彼の気持ちも判らないでもない。あの78にも及ぶカット割りをデザインし、絵コンテにしたのは、バスなのである。


 バスとしては「あのシーンをデザインしたのは俺なのだから、実質的な監督は俺なのだ」と云いたいのだろう。しかし、待てよ。そのようにデザインするよう指示したのは、ヒッチコックなのである。
 監督とは、その映画の責任者のことである。彼がスタッフや俳優に指示を出し、OKを出して、自らの責任において映画を完成させるのだ。かかる観点からするならば、バスのしたことは、その他スタッフや俳優のしたことと変わりない。
 その意味で、シャワー・シーンの監督は、間違いなくヒッチコック自身である。

 というわけで、「シャワー・シーンの監督者」としての栄誉を敢えなく逃してしまったソウル・バスの「唯一の監督作」が本作である。この映画を見れば、彼だけではあのシャワー・シーンを作れなかったことがよく判る。デザイナーである彼は「固定した絵作り」には強いが(例えば、上写真や左写真を参照)、カメラ移動やカット割りによる映画作法には長けていない。そのために、本作も「素人の習作」的な匂いがする。次回作が期待されたが、それは実現することはなかった。劇映画が撮れないままに、96年に他界している。


 さて、話はようやく本題に移る。
 本作は「あのソウル・バス」が監督するにしては随分と奇妙なチョイスである。なにせ『燃える昆虫軍団』類似の「昆虫パニック映画」だからね。

 宇宙からの放射能だか何だか知らんが、とにかく、その影響で蟻が知能を持ってしまった。種族間の闘争を「話し合い」で解決して、己れらの天敵(蜘蛛とか)を共闘で排除。挙げ句は、人類に代わって地球を支配しようと画策する。
 こうしたアリゾナ方面の地域的な異変に憂慮した政府は、二人の学者を現地に派遣して、「蟻との対話」を通じて解決策を案じるのであった。

 以上のあらすじからも判る通りに、「話し合い」が重要なテーマとなっている作品である。
 人類は「話せば判る」とか云ってる割には、利己主義が露呈して、どんどんと墓穴を掘るハメになるが、アリさんたちは利己主義皆無の「女王様絶対服従」なので一致団結。乱れもせずに、計画を着々と実行する。
 最初は「人類とアリとの知恵くらべだ!」とか「奴らを教育してやれ!」と息巻いていた学者さんも、奴らの結束力に怖じ気づいて、終いにゃ改造手術を施されて、奴らの手先になる始末。かくして、アリさんたちの「地球征服計画」が始まりましたとさ。

 そんな本作の見どころは、なんと云ってもケン・ミドルハムによる蟻の接写撮影である。ちゃんと蟻に演技をつけており、ニクいほどだ。撮影に時間がかかったろうなあと感心驚愕するシーンが続出。本作の監督はひょっとしたら、
「監督:ソウル・バス(ケン・ミドルハム)」
 なのではないか?。


 

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