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美女の皮をはぐ男
THE AWFUL DR. ORLOF

スペイン=仏 1961年 86分 白黒
監督 ジェス・フランコ
出演 ハワード・ヴァーノン
   コンラード・サン・マルティン
   ダイアナ・ロリス
   リカルド・ヴァレ


「スペインを代表する映画監督は誰か?」と訊かれて、普通の人は、まず答えられない。スペイン映画なんて見たことない、ってのが大多数なのだろう。
 映画マニアならば、『ミツバチのささやき』のヴィクトル・エリセって答えるのだろう。
 しかし、私のようなB級人間は「ジェス・フランコ」って答えてしまうのだよ。なにしろ、これまでにあらゆる変名で200本以上の映画を撮ってきたお方なのだ。しかも、そのほとんどが本当にどうでもいいようなホラーかポルノばっかし。1本分の製作費で5本でも10本でも作っちゃうようなツワモノだから、最低も最低、映画史百年の最下層に位置する。ところが、初期作品である本作を見ると、当初の志は意外に高かったことが判る。雰囲気満点のゴシック・ホラーの佳作であり、あの大蔵貢さんが我が国で配給したことからもそのグレードの高さが判る。


 もっとも、本作のプロット自体は、大ヒットしたフランス映画『顔のない眼』からの盗用であり、その点での志の低さは否めない。しかし、作品全体を覆う猥雑な雰囲気と、斜に構えた不安定なカメラ・アングル、そして、何よりも美女を襲う不気味な男の存在感が奏功して、『顔のない眼』よりも怖い作品に仕上がっている。

 オーロフ博士の目的は、顔に傷を負った娘に皮膚の移植をすることだった。そのために博士は、処刑された殺人鬼モルフォを蘇らせて、彼に美女を誘拐させるのだが、移植手術は一向にうまくいかない。やがて、モルフォが恋心を抱く娘にも手を出したために、博士も彼に殺されるのであった。
「死体を蘇らせることのできる博士が、どうして皮膚の移植ごときができないのか?」等、些細な疑問は多々あるが、まあ、いいってことよ。その後のジェス・フランコ作品に比べれば、遥かにマトモな仕上がりである。

 なお、フランコは88年に、本作のリメイクと呼ぶべき『フェイスレス』を撮っている。ヴィスコンティ映画でお馴染みの色男ヘルムート・バーガーが博士に扮し、キャロライン・マンローを誘拐するのであるが、あまりのヒドさに同じ監督なのかと見紛うほどだ。テリー・サバラス扮する刑事(註1)がことのあらましを知り、「そりゃ大変だ」とか云って、現場に向かうショットでブチッと切れて、物語が完結しないままに映画は終わる。フランコの投げやりな姿勢に唖然としたものである。

註1 見直したら、刑事じゃなくてマンローの親父だった。


関連人物

ジェス・フランコ(JESS FRANCO)


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