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双頭の殺人鬼
THE MANSTER
THE SPLIT

米=日 1959年 73分 白黒
製作 ジョージ・ブレークストン
監督 ジョージ・ブレークストン
   ケネス・G・クレーン
音楽 小川寛興
出演 ピーター・ダインリー
   中村哲
   武智豊子
   ジェリー伊藤


 この映画、実際に観てみると、巷で云われているほどにヒドくはない。50年代に流行した低予算怪奇SFにしては、まずまずの出来である。しかし、それでも我々に奇異な印象を残すのは、この映画が日本でロケされているからだろう。

 日本に駐在する新聞記者のラリーは、ラジウムの人体への影響を研究する鈴木博士の研究所を訪れた。ところが、博士は人体実験に失敗したばかりで、次なるモルモットを模索中。飛んで火に入る夏の虫とばかりに、ラリーは睡眠薬を盛られて注射を打たれる。敏腕な新聞記者ならばこの時点で不審に思う筈なのだが、ラリーは温泉で接待されてイイ気分。鈴木博士の美人秘書までごちそうになって、炭坑節を踊り狂う始末。享楽三昧の日々を送る。
 ところが、次第にラリーの身体に変調が訪れる。右肩にコブが腫れ上がり、よく見ると、それはまるで顔のようだ。近所の住職に相談するも、英語が通じないので相手にもされない。キレたラリーは住職を殺害。以後、手当たり次第に殺人を繰り返す。
 この頃にはコブは立派なアタマに成長していた。まるで落語の『瘤弁慶』だ。やがて、アタマはメキメキメキと本体から分離し、ゴリラのような化け物となってラリーに襲いかかる。これを火山に突き落としてハッピーエンド。果たしてラリー本体は殺人の罪に問われたのであろうか?。

 日本を舞台にした変な映画は数あれど、本作の文化考証は意外にマトモである。そのわけは、新東宝を中心とした日本人スタッフが参加していることにもあるが、私には原作・製作まで手掛けたジョージ・ブレークストン監督にあるように思えてならない。
 思うに、彼は第二次大戦中に従軍し、戦後、日本に進駐していたのではないか?。そして、クニに帰って、
「ああ、日本は楽しかったなあ。また温泉に行きたいなあ」。
 などと懐古して、それでこんなバカな映画を作った。どうもそんな気がする。
 だって、この映画、日本が舞台である必然性がないもん。
 そう思うと、主人公のラリーが芸者と一緒に炭坑節を踊り狂うシーンがリアルに見えてくる。ブレークストンさんも芸者と一緒に踊り狂ったんだろうなあ。そして、旅館の大浴場を貸し切って、そこで芸者としっぽり濡れたんだろうなあ.....。
 以上はあくまでも私の推理だが、かなり高い確率で的中しているであろうことをここに断言する。


 などと断言してしまったが、ここまで書き上げた直後に我が国の怪奇映画を網羅した『銀幕の百怪〜本朝怪奇映画大概』(泉速之著・青土社刊)という本を入手、私の推理がまるでデタラメであったことを知る。
 泉氏によれば、ブレークストンはもともと役者であり、やがて映画製作に手を染め、昭和25年に『東京ファイル212』という映画を日本で製作したのを機に、我が国でのアメリカ映画の配給事業を始める。
 日本に詳しいのも道理で、彼は日本に住んでいたのだ。
 そして、ユナイト日本支社から2500万円の提供を受けて製作したのが本作だったのである。ということは、資金は日本円、製作は日本の会社(ブレイクストン株式会社)なわけだから、本作は純然たる日本映画だったわけだ。これには驚いた。したがって、本作を「米日合作」とした上の表記は誤りである。

 なお、我々の世代には「国分寺書店のオババ」として知られている武智豊子が出演しているのは意外であるが、その役はあんまりである(左写真)。『悪魔の植物人間』ばりのフリークス。両眼の位置がズレており、出っ歯はまるでミスター・ブーだ。檻の中に住んでいて「ウガー、ウガー」と唸るだけである。


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