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降霊
Kourei

日本 1999年 97分
(TVM・2000年劇場公開)
監督 黒沢清
脚本 黒沢清
   大石哲也
原作 マーク・マクシェーン
出演 役所広司
   風吹ジュン
   草薙剛
   きたろう
   岸部一徳
   石田ひかり
   哀川翔
   大杉漣


 

 初めて《スキャナーズ》を観た時は感心させられた。というのも、超能力者が「気の毒な人」として描かれていたからだ。なるほど。たしかに、望みもしないのに他人の考えていることがアタマの中に入ってくるのは迷惑なことだ。
 それと同じことが霊能者にも云える。望みもしないのに見えてしまうのは迷惑なことだ。本作は、たまたま見えてしまったために破滅へと向かう夫婦を描いた、いわば《スキャナーズ》心霊版である。

 役所広司風吹ジュンは、ごく普通の夫婦である。しかし、たった一つだけ普通ではなかった。妻には霊が見えてしまうのである。今日もパート先のファミレスで、大杉漣につきまとう女の霊を見てしまった(左写真上)。見たくもないものを見てしまった彼女は、居た堪れなくなりパートを辞める。
 そんな或る日、自家用車のトランクの中に衰弱した少女を発見する。少女は誘拐されており、犯人から逃げ出して、トランクの中に隠れていたのだ。
 そして、偶然にも、妻は警察からその少女の「霊的捜索」を依頼されていた。
 ここで欲を出す妻。
「私が発見したことにすれば、私は霊能者として有名になれるわ」。
 しかし、すべてが裏目に出て、夫婦は破滅へと向かうのであった。

 本作で注目すべきなのは、霊能者の苦悩を描き切ったプロットだけでなく、その心霊描写である。白昼堂々と、何の前触れもなく唐突に出現する「それ」には、誰もがヒヤッとさせられることだろう。特に、夫がなにげに妻を見ると、その肩に死んだ少女の腕がある.....という心霊写真定番のショット(左写真下)は絶品である。
 しかし、少女の霊自体は、実はあまり怖くない。悪いのは彼女を死なせてしまった夫婦であり、彼女が現われるのは因果律の当然の帰結なのだ。だから、少女の霊よりもむしろ、大杉漣につきまとう女の霊の方が怖い。何故つきまとっているか、その理由が判らないからだ。
「幽霊は、出てくる理由が判らない方が怖い」。
 そのことに気づいた黒沢監督が、次に撮ったのが《回路》である。とにかく出てくるが、その理由はまるで判らない。だから、あの映画は、やたらと怖いのである。

 なお、本作は79年になってようやく我が国で公開された《雨の午後の降霊祭》(64年)のリメイクであるが、オリジナルの方は、インチキ霊媒師が有名になるために自ら誘拐するというスリラー映画であった、