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蛇の道
Serpent's Path

日本 1998年 85分
ビデオ題「修羅の極道/蛇の道」
監督 黒沢清
脚本 高橋洋
出演 哀川翔
   香川照之
   柳ユーレイ
   下元史朗


 

 問題作《CURE》に続いて作られた、すこぶる怖い黒沢清作品である。本来なれば「最低映画館」などでの上映はもっての他だが、知名度が今一つ低いようなので、援護射撃の意味で紹介しよう。

 冒頭、二人の男が宅配便を装い、一人のヤクザ者を誘拐する。そして、廃虚と化した倉庫に監禁する。
 誘拐者の一人、香川照之は娘を殺害されていた。レイプされた上に惨殺されたのだ。復讐を誓った彼は、犯人を探し出し、制裁するべく今を生きている。
 もう一人の哀川翔は、香川とは親戚でもなければ親友でもない。偶然に香川と出会い、ただ「一度、こういうことをやってみたかったんだ」という理由だけで香川を助けている。笑いもしなければ怒りもしない。怖がりもしなければ悲しみもしない。感情というものがそっくり欠落してしまったような男である。
 その哀川が、ヤクザ者の下元史朗が関係者であるとの情報を仕入れて来た。それで誘拐して、監禁しているのである。
 食事も与えず便所にも行かせず、娘のビデオを延々と流して死亡報告書を読み上げる香川。地獄の責め苦に下元は、組長の柳ユーレイが首謀者だとゲロする。
 今度はユーレイを誘拐する二人。そして、ユーレイの話から、香川はかつてユーレイの下で働いていたことが判明する。それを驚きもせずに淡々を聞いていた哀川は、香川が眠っている隙に、下元とユーレイに「茶番」を演じることを唆す.....。
 このあたりで観客の頭の中の「?」は最大限に膨らむ。
 哀川翔。お前はいったい何者なんだ?。

 これ以上書いてしまうとネタバレになってしまうので書かないが、とにかく哀川翔の存在がどんどんと不気味になって行く。
 堅気(高等数学塾の講師)でありながら、「一度、こういうことがやってみたかったんだ」という理由だけで拉致監禁に加担し、殺人にまで手を染める。その一方で、平然と香川を裏切り、事態を破滅へと導く.....。
 その目的は最後に明らかとなる。
 なるほど。哀川の感情が欠落してしまったのは、そういうわけだったのか.....。

 本当に恐ろしい映画である。
 前作の《CURE》が、役所広司が感情を持たない「完全な人間」に「CURE」するまでを描いた物語ならば、本作は「CURE」した哀川翔が行動を始める物語である。
 とにかく、哀川翔の存在自体が怖い。感情がないということが、これほど怖いとは思わなかった。