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八仙飯店之人肉饅頭
THE UNTOLD STORY

香港 1993年 100分
製作 ダニー・リー
監督 ハーマン・ヤオ
脚本 ラオ・カムファイ
出演 アンソニー・ウォン
   ダニー・リー
   シン・フイウォン
   ラウ・スーミン
   パクマン・ウォン


 中国返還前の香港は驚くほどに病んでいた。そのことを如実の物語るのが、本作に代表される「実録犯罪映画」の大ブームである。
 そもそも、このブームは『羊たちの沈黙』の大ヒットに端を発している。我が国でも『エンジェル・ダスト』を初めとして数多の亜流品が製作されたが、香港もその例に洩れなかった.....というか、香港はイタリアと並ぶバッタもん大国である。パクらないわけがないのだ。そして、より過激な方向にパクるということで両国は似ている。「本当にあったことだからしょうがねえじゃねえか」という居直りとともにスクリーンは猟奇天国と化した。香港の場合は「中国返還」という不安材料が手伝って、過激さに拍車が掛かった。その最右翼に位置するのが本作である。返還前の香港が産み落とした最後の徒花であった。

 とにかく「本当に実話かよ?」と疑いたくなるような大残酷のオンパレードである。女の股に割り箸の束をぶち込む。生きたまま火あぶりにする。目玉に伝票を刺しておくアレ(何て云うのアレ?)を突き刺す。圧巻なのは、子供4人の連続首チョンパだ。子供をかくも残酷に殺害して上映禁止にならないのは、世界広しと云えども香港ぐらいなもんである。

 しかし、それ以上にシドイのが、犯人を自白させようとする警察の拷問シーンである。犯人は死体を饅頭にして客に喰わせてしまっていたので、確たる物証がなく、そのために自白を強要しなければならなかったのだ。まず、血反吐が出るまで殴りつけるが、吐かないと知るや、被害者の弟が入所している刑務所に送り込む。そこで連日のようにリンチに遭い、ウンコまみれの便器に顔を突っ込まれ、小便をかけられる犯人。見て見ぬふりの看守。それでも吐かないと、今度は覚醒剤を注射して、3日3晩眠らせないで、疲労がたまったところで背中に水を注射。寝っ転がると激痛が走る。
 本当に実話かよ、これ?

 更にシドイのが刑事たちの描写である。コメディー・タッチなのだよ、ジャッキー・チェンの映画のような。猟奇殺人の合間に刑事たちのコミカルな日常が綴られ、それが殺伐とした物語の清涼剤になってはいるのだが、そのほのぼのとした愛すべき刑事たちが後半になって残酷な拷問を繰り広げるのである。
 感情移入できる人物が一人も登場しない映画である。
 被害者も殺されて当然のような人々だし、部長刑事はいつも愛人を連れているし.....。

 その部長刑事を演じるのが本作のプロデューサー、ダニー・リー。古くは「ブルース・リーのそっくりさん」として『実録ブルース・リーの死』や『北京原人の逆襲』に出ていたボンクラ俳優であったが、チョウ・ユンファと共演した『友は風の彼方に』あたりからバケて、今や香港を代表する俳優兼プロデューサーだ。その彼が、何を思ってこんな問題作を放ったのか?。

 本当に、救いようのない映画である。犯人は結局、手首を切って自殺し、誰も救われずに映画は終わる。


 

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