♪やまのうえに〜 くろいものがある〜
♪うしのくそか〜 わたしのこいびとか〜
へんなおんなのへんなうたで始まるこの映画は『WR:オルガニズムの神秘』で世間を少なからず震撼させたドゥシャン・マカヴェイエフによる更なる問題作である。構成は『WR』によく似ているが、衝撃度はパワーアップしている。久しぶりに再見して、私がかなりの影響を受けていることを確認した。
マカヴェイエフのギャグのセンスは、私の波長とはあまり合わない。正直云って、それほど面白いとは思わない。
では、何に影響を受けたのか?。
下ネタを「これでもかッ」と連発しながら、その実はとても深刻な事柄を物語っている、というところにである。テレビで嫁探しをする大富豪、キラキラ光るおまんこを発見、自らもちんぽこに金粉を塗るも、嫁に拒否され大激怒、手コキ修行の旅に出されてエッフェル塔で膣けいれん。こうした下ネタ連発の挙げ句、唐突に映し出されるのが、なんと「カチンの森」なのである。
「この船は屍体でいっぱいよ」
「いいさ。世界中が屍体ばかりだ」
「カチンの森」の大虐殺は、当初はナチスによるものだとされていたが、実はソビエトによるものだった。世界中は屍体ばかりだ。共産主義を罵倒し、資本主義を侮辱するための下ネタなのであり、そのアナーキーな姿勢に、ヤングマンの私はグッと来たのである。
アナーキーの極みは前衛芸術家オットー・ミュール(註1)のシーンである。食事をしながらゲロを吐き、放尿してウンコする。それを眺めながら茫然自失でちんぽこに頬ずりするヒロイン。背景には切な過ぎる音楽が流れて、
「こんな映像で感動させようとしてやがるッ」
そして、再び映し出される「カチンの森」の大虐殺。腐敗した屍体のポケットからは、妻と娘の写真が発見される.....。(註2)
「お前ら、のうのうと生きてていいのか!?」
そんなマカヴェイエフの罵声が画面から聞こえてくるようだ。
註1:この人を「芸術家」と呼ぶことにはちょっと抵抗がある。フリーセックス・コミューンの主催者で、マンソンと似たところがあるからだ。91年から7年間、未成年者強姦の罪で投獄されていたらしい。
註2:「カチンの森」の部分は実写である。
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