かつてのアメリカでは、映画館が遊園地だった時代があった。
と云っても、私はその頃の合衆国には暮らしていないのであるが、文献で読むと楽しそうだし、その当時を懐古した『マチネー』や『ポップコーン』を観ると羨ましくなってしまう。是非ともその楽しさを紹介したいが、『マチネー』はジョー・ダンテによる大作なので当最低映画館にはふさわしくない。ボブ・クラークとアラン・オームズビーの「死体と遊ぶなB級コンビ」による本作を今宵は上映することにしよう。
B級ながらも、大変に面白い作品である。「映画館を遊園地にした男」ウィリアム・キャッスルを知る者ならばなおさら楽しむことが出来る。『マチネー』もキャッスルをモデルにした話だったが、あれは基本的に青春映画だ。かたや、こちらはキャッスルが興行に用いたギミックで人を殺すホラー映画である。どちらがよりキャッスル的かというと、こちらの方に軍配が上がる。しかも、本作は『マチネー』より2年も早いのである。
或る大学の映像科の学生たちが撮影資金を調達するためにちょっとした興行を企画する。往年のギミック映画をそっくりそのまま再現しようというのである。
まず『モスキート』(写真上)は立体映画。クライマックスになると巨大な蚊の模型が劇場内を飛び回る。(キャッスルが『地獄へつづく部屋』で用いたギミック)。
そして『驚異の電気男』(写真中)では、ハイライトで客席に微電流を流す。(キャッスルが『ティングラー』で用いたギミック)。
最後の『悪臭』(写真下)は「オドラマ」だ。映画内で悪臭が漂うと劇場内に実際に悪臭を流すのだ。(これはキャッスル信奉者のジョン・ウォーターズが『ポリエステル』で用いたギミック)。
以上の3作はこの映画のために撮影されたオリジナルであるが、これが極めてよく出来ている。『マチネー』の『マント』よりも安っぽくて、いかにも実在していそうなリアルさである。(特に『悪臭』は日本か香港の映画という設定で、その胡散臭さへの細やかな配慮には感心した)。
興行は満場の入りの大成功であったが、しかし、この劇場には暗い過去があった。そして、その過去の清算をするべく、仮面の怪人が殺戮を繰り広げるのであった.....という『オペラ座の怪人』のような物語である。
粗筋だけだとたわいもないが、随所にちりばめられた仕掛けが楽しい。「B級映画を愛する人が作った映画」である。私にとっては宝物のような映画だ。
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