地獄 新東宝 1960年 100分 |
これほど変な映画は他にない。なにしろ登場人物全員が映画半ばで死んでしまうのである。初めて観た時、あまりのことに我が眼を疑った。 大学生の清水四郎(天地茂)は恩師矢島教授の一人娘、ユキコ(三ツ矢歌子)と婚約していた。しかし、彼の心中は穏やかではない。同級の田村(沼田曜一)が酔っぱらいを轢き殺した時に助手席にいたのである。 と、まあ、こんな調子で因果な人々が次々に登場し、そして次々に死んでいく。主人公四郎を襲う悲惨の度合いも半端でなく、ユキコとそっくりのサチコ(三ツ矢歌子の二役)なる女性と出会い、恋に落ちれば実の妹だったりする。 |
第二部の悲惨もハンパではない。 製作は「日本のロジャー・コーマン」として近年再評価されつつある大蔵貢。弁士出身の興業師である彼が、倒産寸前だった新東宝の社長に就任したのは55年のこと。57年に『明治天皇と日露大戦争』を放ち6億3千万の大ヒットを記録。経営を立て直すも、映画産業全体の斜陽には勝てず、見世物小屋的発想のエログロ路線に転向。しかし、61年に敢えなく倒産。『地獄』は新東宝末期に咲いた仇花であったのだ。 大蔵氏にうんと怒られた中川信夫監督については、あまりにも多くの絶賛が寄せられている名匠なので、私が書くまでもないだろう。ただ、晩年は「本編」が撮れない不遇時代が続いた。東京12チャンネルの伝説的エロ番組『プレイガール』などを監督していたが、ひし美ゆり子による回想録によれば、結構楽しんで撮っていたようだ。割切りのできる職業監督だったのだろう。 とにかく、『地獄』は私の邦画ベスト1であることは間違いない。 |