シルヴィア・シーグリスト
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1985年10月30日、ペンシルベニア州スプリングフィールドの商業施設、スプリングフィールド・モールにおいて、シルヴィア・シーグリスト(25)が半自動小銃を乱射し、3人が死亡、7人が重傷を負った。
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シルヴィアには15歳の時から10年に渡って、実に12回も精神医療施設に収容されていた過去があった。そんな人でも銃を買えてしまうのだからアメリカという国は恐ろしいが、それはともかく、彼女はこのショッピング・モールでも以前から数々の奇行で知られていた。店員や買い物客に罵声を浴びせたりしていたのである。そして、事件当日の午前中にも、薬局で精神安定剤の販売を断られて、店員を口汚く罵っている。おそらく、そのことが直接の引き金になったのだろう。緑色の軍服に身を包み、ニット帽を被った彼女は、たった一人の戦闘を開始したのだ。
シルヴィアの狼藉は、当初はハロウィンの悪ふざけか何かだと思われていたようだ。ショッピング・モールでライフル銃を構える姿は、映画『ゾンビ』のパロディのようだ。ところが、現実に撃たれた人々が血を流し、苦しむさまを見るに及んで、ようやく事態を把握した。基地外が暴れているのだと。
死者が3人に留まったのは、ジョン・ラウファーという勇敢な若者のおかげである。彼は銃口が自らに向けられているにも拘らず、シルヴィアに突進して身柄を押さえることに成功したのだ。その後、現場に駆けつけたガードマンに拘束され、動機を訊かれた彼女は、このように答えた。
「家族が私を悩ませるのよ」
どうやら、彼女は精神医療施設に入れられることを怖れていたようなのだ。
思うに、彼女はもう死にたかったのだろう。明言はしてはいないが、逮捕後に捜査官に浴びせた罵声からそのことが窺える。
「糞ったれ! お前なんか飢え死にすればいいんだよ、このオマンコ野郎!」
(Fuck you, I hope you starve, motherfucker.)
「早くしろよ、この野郎! あたしが有罪だってことは判ってんだろ! さっさと殺せよ!」
(Hurry up, man. You know I'm guilty. Just kill me on the spot)
しかし、シルヴィアが死刑を宣告されることはなかった。「有罪だが精神異常」と評決されて、終身刑に留まったのである。
近年の彼女の精神状態は落ち着いているようである。施設での長期に渡る治療が奏功しているのだろう。
(2012年11月25日/岸田裁月) |