2006年10月2日、ペンシルベニア州ランカスター郡の田舎町、ニッケル・マインズでの出来事である。午前10時25分頃、アーミッシュの学校にショットガンやライフル、拳銃等で武装した男が乱入し、妊娠中の女性教師と幼児を連れた3人の成人女性、そして15人の男子生徒を解放すると、10人の女子生徒(6歳から13歳)を人質に取って籠城した。人質たちはガムテープで手足を縛られていたという。
警察に通報があったのは午前10時35分頃のことだ。その10分後には武装警官が校舎を取り囲んだ。やがて男は自ら911番に電話を掛けて、このように云い放った。
「警察が校庭から出て行かなければ、人質を殺害する」
しかし、犯行の目的を告げることはなかった。
午前11時7分頃、学校内で銃声が響き渡った。武装警官が学校に強行突入すると、10人の人質全員が銃で撃たれて、犯人は自らの頭を撃ち抜いて自殺していた。人質のうち、5人の命は助からなかった。
ナオミ・エバーソル(7)
メアリー・ミラー(7)
レナ・ミラー(8)
アンナ・ストルツファス(12)
マリアン・フィッシャー(13)
13歳のマリアン・フィッシャーは「撃つのなら私からにして下さい。そして、他の子は解放して下さい」と犯人に交渉したと伝えられている。しかし、その願いは叶えられなかった。
犯人はチャールズ・カール・ロバーツ(32)という地元の牛乳配達員だった。自宅に妻と3人の子供に宛てた4通の遺書が残されていたことから、犯行は自殺の一環だったと思われる。
妻に宛てた遺書の中で、ロバーツは9年前に未熟児として生まれた娘が間もなく死亡したことに触れて、神への激しい怒りをあらわにしていた。だが、彼はアーミッシュを憎んでいたわけではなかった。
また、彼は籠城中に妻に電話を掛けて、20年前、つまり彼が12歳の時に2人の親類の少女(3〜5歳)に性的なイタズラをしたこと、そして、今でも少女へのイタズラを夢想していることを告白していた。だから少女ばかりを人質に取ったのだろうか? だが、彼は人質にイタズラはしていない。
理解不能の事件である。
どうして彼は自殺しなければならなかったのか?
どうしてアーミッシュの学校がその場に選ばれたのか?
判らないことだらけだが、犯人が死んでしまっている以上、判らないままに筆を置かなければならない。
(2013年1月31日/岸田裁月) |