スペイン人の船乗り、ジョセフ・ガルシア(21)はニューポートで強盗を働いた容疑で有罪となり、アスク刑務所に9ケ月間服役していた。釈放されたのは1878年7月16日のことである。そして、その翌日にニューポートに向かう途中のランギビーでワトキンス一家を惨殺した。いったい何のための服役だったのか? 全く更正してないじゃないか。
1878年7月17日早朝、ウィリアム・ワトキンス(40)が農作業に現れないことを不審を思った隣人が、丁稚の少年を使いに出した。やがて彼が目にしたものは、庭で血みどろで横たわるウィリアムと妻のエリザベス(44)の姿だった。
「大変だあ! ワトキンスさんが殺されたあ!」
ワトキンス家の2階からは煙がもうもうと立ち上っている。どうやら火が放たれたようだ。鎮火後に判明したことは、一家皆殺しの事実だった。就寝中のシャーロット(8)とフレデリック(5)、そして、アリス(4)の3人が斧で惨殺されていたのだ。
いったい誰がこんなことを?
翌日、ニューポート駅で血まみれの服を身につけたジョセフ・ガルシアが逮捕された。履いていたブーツはウィリアム・ワトキンスのものだった。刑務所から釈放されて、帰国する途中に一家を皆殺しにして、必要なものを手に入れたのだ。
ちなみに、ガルシアは片言の英語しかしゃべれなかった。そんな男を刑期が満了したからといって、ケアもなく釈放してどうする? この事件は英国の刑事政策史上、最大の汚点と云えよう。
ジョセフ・ガルシアは1878年11月18日に絞首刑により処刑された。しかし、尊き5人の命は戻らないのだ。いったい誰が責任を取るというのだろうか? 私は怒っている。
(2012年10月12日/岸田裁月)
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