ウェールズ南部に位置するコウブリッジ近郊の小さな町、ペンリンでの出来事である。
1960年1月2日、清掃婦のルビー・カーター(33)が自宅のベッドの上で、バールのようなもので頭を殴られて殺害された。息子のアラン(6)も同様に殴られていたが、幸いにも一命だけは取り留めた。
発見者は夫のエヴァン・カーター(29)だった。午前5時30分に起床した彼は、妻や息子を起こすことなく車でアスベスト工場に出勤し、8時間後に仕事を終えて帰宅したところ、妻の遺体を発見したというのだ。屋内は荒らされており、強盗の犯行かに思われた。
翌日、カーターは地元のテレビに出演し、視聴者に犯人逮捕への協力を呼びかけた。また、息子がいる病院に足繁く通い、その回復を祈る姿は住民の涙を誘った。しかし、次第にこんな疑問が持ち上がった。
「こんな小さな田舎町で、朝っぱらから犯行に及ぶ者などいるだろうか?」
Googleマップで見れば判るが、住民が100人いるかいないかの小さな小さな町なのである。家々は割と密集していて、騒ぎが起これば隣人たちがドヤドヤドヤと集まって来る感じだ。朝っぱらの犯行にはリスクが大き過ぎる。
また、カーターは多額の借金を抱えており、車のローンも滞りがちだった。
更に、検視解剖の結果、ルビーが妊娠していたことが判明した。
以上の事実はカーターの犯行であることを物語っている。つまり、借金で首が回らない彼は、妻から妊娠していることを告げられた。とてもじゃないが、この上、赤ん坊など養えない。そこで妻子を殺害し、人生のリセットを図ったのではないだろうか?
かくして、2週間後の1月15日に逮捕されたカーターは、殺人容疑で有罪となり終身刑を宣告された。決め手は犯行当日に彼が着ていた服から検出された血液だった。
ちなみに、息子のアランは若干の障碍が残ったものの回復し、カーターの両親に引き取られたようである。
(2012年10月8日/岸田裁月)
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