1996年7月8日、ウエスト・ミッドランズ州ウルヴァーハンプトンの聖ルカ教会幼稚園での出来事である。
その日は午後から「テディーベアーズ・ピクニック」が催されていた。可愛いクマちゃんのぬいぐるみと共に、園児とその親が屋外でお茶とおやつを楽しむ集いだ。そんな集いがまさかこんなことになろうとは…。誰も思ってもみなかった。
それは午後3時を回った頃だった。或る父親曰く、
「園外で黒人の男がウロついているのが目に入りました。私はゴミ収集人か何かかと思っていました。ところが、その男はフェンスを乗り越え、こちらに向かって来たのです。その手にはマチェーテが握られていました。そして、誰彼構わずに切りつけたのです。彼は全く正気を失っていました」
マチェーテとは「中南米原住民が伐採に用いる鉈」のことである。大量殺人ゲーム『ポスタル2ウィークエンド』でも武器として採用され、同名の映画もロバート・ロドリゲス監督により撮られている。とにかく、半端なく野蛮な凶器である。それが「テディーベアーズ・ピクニック」に持ち込まれたのだ。その衝撃たるや如何ばかり。可愛いクマちゃんもびっくりである。
幸いにも死者は出なかった。しかし、3人の園児(うちの2人は女の子)と3人の母親、そして、1人の保育士が重傷を負った。
その保育士のリサ・ポッツ(21)は園児を守るために最も傷を負った。頭と背中と腕に深い傷を負い、腕はちぎれそうになっていた。彼女は後日、その勇気ある行動を評価されて、ジョージ・メダルを授与されている。
犯人はおよそ2時間後に近くの住宅街で逮捕された。ホレット・キャンベル(32)。無職の統合失調症患者だった。彼の耳には「子供たちが囁く悪口」が聞こえていたようだ。だ〜れも彼のことなんか、気にもしていなかったのにね。
かくして、7件の殺人未遂で有罪になったホレット・キャンベルは、精神医療施設に収容された。今のところ、退院の見込みはなさそうである。
(2013年1月1日/岸田裁月) |