サマセット生まれのエリザベス(旧姓不明)は気性の激しい女だった。地元の裕福な農家、ブランチ家に嫁いでからもその性格は変わることなく、使用人たちから恐れられていた。怒りを買うと何をされるか判らないからだ。
娘のメアリーもまた気性の激しい女だった。やがて主人たるブランチ氏(名前不明)が病いで亡くなると、気性の激しい親子の恐怖政治が始まった。使用人の多くは逃げ出し、親子は孤児院から孤児を受け入れることで労働力を補っていた。
その孤児の中にジェーン・バターワースがいた。彼女は些かトロかった。それがブランチ親子の癇に障った。事あるごとに折檻されていたようである。
或る日のこと。搾乳婦のアン・サマーズが一仕事を終えて母屋に出向くと、衣服を剥ぎ取られたジェーンが血の海の中で倒れていた。箒の柄でボコボコにされ、傷口には塩が塗り込まれていたというから痛ましい限りだ。
「あんた、見ちゃいけないものを見たわね!」
見上げれば、ブランチ親子が鬼の形相で睨んでいる。
「このことを誰かに云ったら承知しないよ! 判ったわね!」
「は、はい、他言は決して致しません、ご主人様」
と、その場では引き下がったが、隙を見て脱兎の如く逃げ出して、警察に保護を求めた次第である。
かくして、ジェーン・バターワース殺しで有罪となり、死刑を宣告されたエリザベスとメアリー(当時24歳)の親子は、1740年5月3日に絞首刑により処刑された。
(2012年10月5日/岸田裁月)
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