移転しました。https://www.madisons.jp/murder/text4/backhouse.html

 

グレアム・バックハウス
Graham Backhouse (イギリス)



グレアム・バックハウス

 イングランド南西部、グロスタシャー州チッピング・ソドベリー近郊の農村地帯、ホートンでの出来事である。
 1984年4月9日、 グレアム・バックハウス(44)の妻、マーガレットが自家用車のエンジンをかけるや否やに爆発し、瀕死の重傷を負った。爆弾が仕掛けられていたのだ。それはショットガンの弾12発分の火薬と鉛散弾を2本の鉄パイプに込めた手製のものだった。
 はて、下手人は誰なのか? 夫のグレアム曰く、

「実は私たちは近頃、何者かに脅されていました。脅迫文が何通も届き、つい先日には自宅近くのフェンスの上に切り落とされたヤギの頭と、このような手紙が置かれていたのです」

 そこには「YOU NEXT」と書かれていた。
 犯人の狙いは家主たるグレアムの命であると判断した警察は、24時間体制で警護に当った。そして、何事もなく9日が過ぎた頃、グレアムからの申し出により警護は解かれた。但し、万が一のことがあるといけないので、地元の警察署に直結する非常ボタンが取り付けられた。

 その非常ボタンが作動したのは4月30日の夜のことだった。巡査がバックハウス家に急行すると、玄関先に男が血みどろで倒れていた。胸をショットガンで撃たれて、既に事切れている。この男はバックハウス家の隣人のコリン・ビデイル=テイラー(63)だった。その右手にはやはり血みどろの万能ナイフが握られていた。
 一方、家主たるグレアムはというと、刃物で顔面や胸を切りつけられた状態で居間の入口に倒れていた。やがて意識を取り戻した彼は、その晩にあったことをこのように語った。

「コリンが訪ねて来て『お宅の家の壊れた家具を直してやるよ』と云い出したんです。『うちには直す家具なんてないですよ』と応えると、突然に眼の色を変えて『俺は神のお導きでここに来たんだよ』とか『2年前に俺の息子が自動車事故で死んだのは知ってるよな。あれはお前の責任なんだ』とかワケの判らないことを口にしてナイフで切りつけて来ました。爆弾も彼の仕業だと告白していました。このままでは殺されると思った私は居間に走り、護身用のショットガンを手に取ると、コリンに目掛けて1発撃ちました。彼がその場に崩れ落ちると、安心したのか、私の意識も遠のきました」

 この証言は法医学的な検査結果とは矛盾していた。
 まず、ショットガンには血がまったく付着していなかった。このことはつまり、グレアムがコリンを撃った時には負傷していなかったことを意味する。
 また、ナイフが握られていたコリンの手のひらにはコリン自身の血がべったりと付着していた。ナイフを握った状態で撃たれたのならば「己れの血が手のひらにべったり」はありえない。撃たれた後に偽装工作としてナイフを握らされたと見るべきだろう。

 では、グレアムがコリンを真っ先に殺害したとして、その動機は何だったのか? 実はグレアムには7万ポンドもの借金があったのである。そして、妻のマーガレットには1984年3月の時点で5万ポンドの生命保険がかけられていた…。
 もうお判りだろう。キャロラインの殺人未遂もグレアムが仕込んだもので、そのことを疑われることを避けるために架空の脅迫人をでっち上げ、罪もない隣人をそれに仕立てることで己れの嫌疑を晴らそうとしたのである。まったくもって極悪非道のコンコンチキである。

 かくしてグレアム・バックハウスは1985年2月19日、殺人と殺人未遂の容疑で有罪となり、2つの終身刑を宣告された。ネット上の一部の記事によれば、1994年に獄中で死亡したそうである。

(2012年9月15日/岸田裁月) 


参考資料

http://www.murder-uk.com/
http://www.murderuk.com/one_off_graham_backhouse.html
http://forensicsncrime.proboards.com/index.cgi?board=crimecases&action=display&thread=1157
http://www.neilsands.plus.com/backhouse.htm


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