トレイシー・ウィギントン
左上:リサ・タスチンスキー
右上:キム・ジャーヴィス
左下:トレイシー・ウォー
右下:エドワード・バルドック |
まずは遺体発見現場を御覧頂きたい。Googleマップで以下の住所を検索すると、その場所が表示される。
「Orleigh Park, Brisbane, Queensland, Australia」
1989年10月21日早朝、クイーンズランド州南東部の都市、ブリスベンを流れるブリスベン川の岸辺で、エドワード・バルドック(47)の惨殺死体が発見された。手元に遺体の写真があるので説明しよう。ほぼ全裸で、靴下だけを身につけた状態で、俯せに倒れている。ナイフの刺し傷は首に集中しており、検視によれば27ケ所も刺されていたという。
遺体のそばには彼の靴が揃えて置かれている。そして、左の靴の中にカードのようなものが見える。それがトレイシー・ウィギントン(24)のクレジット・カードであったために、彼女はスピード逮捕された次第である。
ウィギントンと共に、前日の晩に犯行現場にいたリサ・タスチンスキーとキム・ジャーヴィス、トレイシー・ウォーの3人も逮捕された。彼女たちは同性愛者で、ウィギントンの恋人だった。
その供述によれば、犯行は以下のようなものだった。
1989年10月20日の晩、ドライブをしていた彼女たちは、酒に酔ってヨロヨロと家路につくバルドックに声をかけて誘惑した。
「ねえ、私たちといいことしない?」
そして、ブリスベン川の岸辺にあるオーリー・パークに誘い込んだ。
「ここなら誰にも見られないわ」
「私たちも脱ぐから、あなたも脱ぎなさいよ」
据え膳喰わぬは何とやらで、バルドックが素っ裸になったところで、ウィギントンがバタフライ・ナイフで彼を襲い、死に至らしめたのである。そして、その死を確認すると、ウィギントンは喉の傷口から溢れ出る血を飲んだというのだ。
なんと、彼女たちはウィギントンがヴァンパイアで、その血を飲むためにバルドックを殺したと供述したのである。
「トレイシーは通常の食事は受け付けないため、屠殺場に出向いて牛や豚の血を分けてもらっていました。私たちの手首から血を吸わせてあげることもありました。だけど、それだけでは足りません。彼女に思う存分に人の血を飲ませてあげたい。そう思って、あの男を誘惑しました」
いやはや、到底信じられる話ではない。
結局、真の動機は判らず仕舞いだった。主犯たるウィギントンとタスチンスキーには終身刑、ジャーヴィスには12年の刑が下されたが、ウォーは積極的に関与していないことが認められて無罪放免となった。
(2011年1月26日/岸田裁月) |