ゲイリー・アラン・ウォーカー
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1984年5月7日、オクラホマ州タルサ近郊ブロークン・アローでの出来事である。好人物として近隣に知られるエディ・キャッシュ(63)の遺体が自宅の居間で発見された。後頭部をレンガで殴られ、掃除機の電気コードで首を絞められている。動機はおそらく物盗りである。財布の他に自家用車のバンが盗まれていた。
翌日の5月8日、南東に100kmほど離れたポトーで、マーガレット・ベル(36)の捜索願いが娘により提出された。彼女は前の晩に酒場で目撃されたのを最後に行方不明になっていた。
この時点では2つの事件を結びつけて考える者は誰一人としていなかった。
5月14日、タルサの北東70kmほどのヴァイニータで、ジェーン・ヒルバーン(35)の遺体が発見された。死因は絞殺だった。財布の他に自家用車のカマロが盗まれていた。
翌日、タルサ近郊オークハーストで、若い女性が「ゲイリー・エドワーズ」と名乗る男にナイフで脅され、強姦される事件が発生した。その男が乗っていたのが件のカマロだった。
その5日後、やはりタルサ近郊スキアトゥックで、17歳の少女がカマロの男に強姦される事件が発生した。
乗り捨てられたカマロが発見されたのは5月22日のことだ。早速、指紋の照合作業が進められたが、その結果が出るまで大人しくしているような犯人ではなかった。
5月23日、タルサの南30kmほどのベッグスで、就職活動中のジャネット・ジュエル(32)が行方不明になった。
翌日の午後には、タルサのラジオ局でニュースキャスターをしていたヴァレリー・ショー=ハーツェルが自家用車のピックアップトラックと共に行方不明になった。彼女が最後に目撃された量販店の駐車場には、ジャネット・ジュエルの車が乗り捨てられていた…。
この時点でようやく警察は、タルサ周辺で続発する事件の犯人が同一人物である可能性に気づいたのである。
その翌日の5月25日、ドライブスルーの銀行で失踪中のヴァレリーの姿が目撃された。彼女は自らが振り出した500ドルの小切手を換金していた。助手席に同乗する若い男の風貌は、件の強姦犯のそれと一致した。
5月26日、再びヴァイニータで若い女性が強姦される事件が発生した。犯人はヴァレリーのピックアップトラックに乗っていた。彼女が殺害されたことは、ほぼ間違いないだろう。
5月28日、遂に指紋の主が判明した。ゲイリー・アラン・ウォーカー(30)。過去15年に渡って様々な犯行に手を染め、ムショとシャバを行き来していた筋金入りのワルだ。自らをこのように紹介していたほどである。
「17歳を過ぎた頃から1年通してシャバで暮らしたことがない」
このたびも2月7日に釈放されたばかりだった。獄中では、
「死んだ兄が話しかけてくるので困る」
などと精神科医に相談し、統合失調症と診断されていたという。いいのか、こんなのをシャバに出しちゃって?
とにもかくにも出しちゃったのだから仕方がない。早く捕まえなければなるめえ。
ところが、その翌日にもウォーカーは、アーカンソー州ヴァン・ビュアレンで2人の少女を誘拐して強姦。6月2日には或る家に押し込み、逃走用の車を奪っている。やれやれ、ちっともへこたれてないね。
もっとも、その日がウォーカーの年貢の納め時となった。夜分になって地元警察にタレ込みがあり、粗末なトレーラーハウスの中で2人の男と強盗の打ち合わせをしているところを逮捕されたのである。
間もなくウォーカーは犯行の一部始終を自供した。
その際の以下の云い草が有名である。
「済まねえな、5人も殺しちゃって」
(I'm sorry I killed five people, okay ?)
誘拐された3人の女性は推測通りに殺されて、人里離れた荒野に遺棄されていた。ウォーカーはそのすべてに案内したというから存外に潔い。
かくしてウォーカーには死刑判決が下されて、2000年1月13日に薬物注射により処刑された。
なお、この事件には後日譚がある。
1986年6月6日、オクラホマ州タルサにほど近い森の中でデロンダ・ロイ(24)の遺体が発見された。全裸の彼女は自らのストッキングで絞殺されていた。全身傷だらけで、煙草を押しつけた痕もあったという。
やがて目撃証言に基づき、1人の男が逮捕された。男の名はマーシャル・カミングス・ジュニア。なんと、2年前の1984年6月2日にウォーカーと共に逮捕された男の1人だったのだ。
いやはや、ウォーカー逮捕の一件は何の教訓にもならなかったようだ。有罪になったカミングスには25年の刑が下された。
(2009年12月11日/岸田裁月) |