連続殺人犯は過去に動物を殺害していることが多い。動物を殺害することを繰り返しているうちに、殺すこと自体に快楽を覚え、遂には殺人にまで及んでしまうのだ。その典型的な例がユーゼビウス・ピーダネルのケースである。
1871年、4件の殺人容疑で裁かれたピーダネルは、裁判官に自分を死刑にしてくれと懇願した。彼にはその殺人衝動を抑えることが出来なくなっていたのだ。
ピーダネルは円満な家庭に生まれ、人並み以上の教育も受けた。凶悪な殺人者となる謂れはなかった。ところが、実家の向かいが肉屋だったことから、彼の運命は狂い始めた。
「血の滴る肉の塊、生々しい血の匂い、そのどれもが私を魅了しました。私は肉屋の店員を羨ましく思いました。彼らは袖をまくり上げ、血にまみれた手で肉切り台に向かうことが出来たからです」
つまり、肉と血の魅力に囚われてしまったというわけなのだ。ピーダネルは反対する両親を説き伏せて、向かいの肉屋に就職した。毎日が至福のひとときだった。初めて屠殺の許可が降りた時、興奮は頂点に達した。
「何よりも恍惚としたのは、屠殺した牛がピクピクと痙攣するのを感じた時でした。今しも消えようとする命がナイフを通じて伝わってくるのです」
ところが、ピーダネルの幸せな日々は長くは続かなかった。父親の意向で肉屋を辞めさせられてしまったのである。それからの彼はすっかり塞ぎ込み、そして、気づいたら牛の代わりに人を殺し始めていた。さすがにこれはヤバいと思った彼は、森の洞穴に身を隠し、俗世から離れようとしたこともあった。だが、殺しの衝動には勝てなかった。6人目を殺したところで警察に出頭した。最後の犠牲者は、かつての勤務先たる肉屋の店主だった。
(2010年12月26日/岸田裁月) |