イリノイ州ロックフォードの職業紹介所に勤務するサイモン・ネルソン(46)はトラブルを抱えていた。妻のアン(37)が6人の子供を残して家出してしまったのだ。スケートのインストラクターである彼女には自活力がある。風の便りでは、ミルウォーキーでモーテル暮らしをしているという。
1978年1月6日、遂に妻が暮らすモーテルを突き止めたネルソンは、強引に押し掛けると、彼女をしこたま殴打した。モーテル経営者の機転で警察が呼ばれて、ネルソンは暴行罪の容疑で逮捕されたわけだが、この事件が面白いのはここからだ。
いや、面白いと云っちゃいけないんだが。
取り調べにおいてネルソンは、唐突に6人の子供を殺害したことを告白したのである。
えっ? なんで?
なんで? なんで?
余りに唐突なために取調官は動揺した。私も動揺した。読者諸君も動揺していることだろう。
明らかに取り乱しているこの男は、その理由をこのように説明した。
「離婚を切り出した妻に対する仕返し(get even)だったんだ」
ああ? それとこれとは関係ないじゃないか!
報告を受けたロックフォード警察は、ネルソンの供述が嘘ではないことを確認した。
ジェニファー・ネルソン(12)
サイモン・ネルソン・ジュニア(10)
アンドリュー・ネルソン(9)
マシュー・ネルソン(8)
ローズアン・ネルソン(5)
デヴィッド・ネルソン(3)
彼らはいずれも睡眠中に鈍器で頭を殴られて、ナイフで刺されていた。飼い犬もまた殺されていた。全く呆れた狼藉である。
ネルソンは一切の弁護を拒み、法廷ではすすり泣くばかりだったという。結局、終身刑が云い渡されたわけだが、彼としては死刑にして欲しかったのではないだろうか。
(2009年3月18日/岸田裁月) |