1953年1月15日、ロバート・ハリスは未熟児として生まれた。アル中の父親が身重の妻の腹を蹴ったからだ。生まれる前から蹴られて育った彼の心はねじ曲がってしまった。14歳の時に自動車泥棒でパクられて以来、ほとんどの時間を塀の中で過ごした。典型的な「生まれながらの犯罪者」であり、故に彼は「典型くん」と呼ばれている(嘘)。
1978年7月5日、ロバート・ハリスは弟のダニエルと共に銀行強盗を計画した。そのためには逃走用の車が要る。そこでまず車を盗むことにした。
2人はサンディエゴのファストフード店「ジャック・イン・ザ・ボックス」の駐車場に車で乗りつけ、適当な車を選ぶとワイヤをパチパチやってエンジンを掛けようとした。ところが、どうしたものか、これがなかなか掛からない。そうこうしているうちに1台の車が2人の脇を通り掛った。ハンバーガーを食べにやって来たジョン・メイスキー(15)とマイケル・ベイカー(16)の高校生コンビである。ここで腹ごしらえをしてから近くの湖に釣りに出掛ける予定だった。
「おい、ダニエル。あれを奪った方が手っ取り早いぜ」
ロバートは2人を銃で脅して後部座席に乗り込み、ミラマー貯水池近くの渓谷まで車を走らせた。
「なあ、坊や。俺たちはこれから銀行を叩くんだが、そのためには車がもう1台必要なんだ。だから、この車を譲っちゃくれないか?」
ノーと云ったら殺される。どうぞどうぞと差し出した。
「それから、警察には奪われたとは云うなよ。駐車中に盗まれたというんだ。判ったな」
はい、判りました。それでは失礼しますと立ち去ろうとするメイスキーの背中に、ロバートは非情にも1発の銃弾を撃ち込んだ。度肝を抜かれたベイカーはその場にへたり込み、涙ながらに命乞いをした。
「どうか命だけは助けて下さい。警察には絶対に云いません」
これに対してロバートはこう云い放ったとされている。
「泣くのはやめろ。男らしく死ぬんだ」
(Quit crying and die like a man.)
そして、4発の銃弾を撃ち込んで、その死を確認した後、まだ生きているメイスキーの頭に銃口を押しつけて1発撃ち込み、息の根を絶ったである。如何にも冷酷な犯行である。兄貴の車で後をつけて、一部始終を目撃していたダニエルの方がまだ人間的だ。高校生が食べ残したハンバーガーを兄貴が旨そうにパクつくのを眼にして嘔吐したのだから。そんな弟の姿に兄貴は大笑いしたという。いやはやなんとも、トンデモねえ鬼畜である。
その1時間後には兄弟はマスクを被ってサンディエゴ信託銀行を叩き、3000ドルを奪ってトンズラしたわけだが、その後が如何にも間抜けである。たまたま現場に居合わせ者に尾行され、隠れ家に入ったところで通報されて、僅か30分で逮捕されたのである。もう少しうまく立ち振る舞ってくれないかなあ。でないと殺された2人が浮かばれない。
弟のダニエルは捜査に協力する見返りとして6年の懲役で済んだものの、兄貴のロバートには極刑が下された。その冷酷さに鑑みれば当然と云えよう。そして、1992年4月21日、サン・クエンティン刑務所のガス室で処刑された。それはカリフォルニア州における25年ぶりの死刑執行だった。
(2009年5月8日/岸田裁月) |