1982年2月16日、ミシガン州ファーウェルでの出来事である。夕食に招かれていた友人がジョージ・ポストの農家を訪ねたのは午後6時30分頃のこと。ところが、既に日が暮れているというのに家の中は真っ暗だ。はて、どうしたのだろうと中に入ってみたところ、キッチンで夫人のヴォードリー・ポストと、娘のガーネッタ・ハガート(23)の遺体に出くわした。辺りは血の海である。友人は慌てて隣家に駆け込み、警察に通報した。
現場に急行した捜査官は、地下室でジョージ・ポストの遺体を発見した。また、農家の前に停めてあるピックアップトラックの中には、娘のヘレン・ガフニー(29)とその子供たち、アンジェラ(10)、トム(8)、そしてエイミー(7)の遺体があった。まだ1歳の娘だけは母親が庇ったおかげで奇跡的に助かった。
遺体はいずれもショットガンで撃たれていた。
ポスト夫人の自家用車以外には盗まれたものは何一つない。故に強盗の仕業とは思えない。動機はおそらく怨恨だろう。そこで容疑者として浮上したのがガーネッタ・ハガートの別居中の夫、ロバート・リー・ハガートだった。性犯罪の前科があるこの男は、別件の詐欺容疑でも捜査中で、事件の翌日には離婚調停のために裁判所に出頭する予定だった。こいつの犯行と見てまず間違いないだろう。間もなく逃亡先のテネシー州で逮捕されたハガートは、7件の殺人で有罪となり、終身刑を宣告された。そして、動機については一切語ることなく、2003年に獄中で死亡した。
月日は流れて2009年7月、ロバート・リー・ハガートの名前が27年ぶりに新聞の紙面を飾った。一家殺害事件の直前にミシガン州ミッドランドでドリス・アルント(30)が強姦の末に絞殺される事件が発生していたのだが、この事件の犯人がハガートであることがDNA鑑定により証明されたのだ。そこでこのような憶測が成り立つ。妻のガーネッタはそのことを知っていたか、あるいは疑いを抱いていたのではないか? そして、離婚調停の場で暴露されることを恐れる余りに犯行に及んだのではないだろうか?
(2010年1月19日/岸田裁月) |