ケネス・フレンチ |
1993年、クリントン大統領はゲイの兵役禁止を撤廃すべきと主張した。これには多くの軍関係者が反撥した。ノースカロライナ州ファイエットヴィルのフォートブラッグに駐屯する下士官、ケネス・フレンチ(22)もまたその1人だった。彼が「ルイジズ・レストラント」に押し入って4人の客や従業員を殺害した時、このように叫んでいたと伝えられている。
「お前に見せてやるぜ、クリントン! ゲイを軍に入れるならな!」
(I'll show you, Clinton, about letting gays into the army !)
しかし、このレストランはゲイ専門店ではないし、被害者にもゲイは1人もいない。いったいどうして彼はこのような蛮行に及んだのだろうか?
犯行前夜の1993年8月5日、勤務を終えたフレンチは同僚と共に飲みに出かけた。兵舎に帰宅したのは午前3時だった。何軒も梯子したようだ。
翌日の8月6日午前9時に起床したフレンチは、友人の家に遊びに出かけ、帰りにビデオ屋に寄って2、3本借りて来た。そして、ビールを飲みながら観たのがクリント・イーストウッド監督・主演の『許されざる者』だった。
その後、彼はフロリダの母親に電話し、泣きながら父親の暴力を止められなかったことを詫びたという。
泥酔していたようだ。これ以降の彼の記憶は定かではない。ただ、ショットガンを車に積み込んだことだけは憶えていた。そして、友人宅のパーティーに寄り、更にビールとウイスキーを飲んだ。その後、危なっかしいハンドルさばきで「ルイジズ・レストラント」に出向き、4人を殺害し、7人に重傷を負わせたのである。
ピート・パロウス(73・店主)
エセル・パロウス(65・ピートの妻)
ジェイムス・キッド(46・客)
ウェスリー・カヴァー(26・客)
おそらく酩酊状態で訳も判らずに『許されざる者』のラストシーンを再現してしまったのだろう。相手は誰でもよかったのだ。
法廷においてケネス・フレンチは責任無能力を理由に無罪を主張したが、陪審員はこれを認めずに有罪を評決し、終身刑が云い渡された。
なお、クリントンは結局、ゲイの兵役禁止を撤廃することは出来なかった。ようやく撤廃されたのは13年後の2010年12月のことである。
(2011年2月9日/岸田裁月) |