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ジェイムス・ブケー
James Buquet (アメリカ)


 1993年10月14日木曜日、カリフォルニア州サンディエゴ近郊の街、エル・カホンでの出来事である。
 グロスモント短期大学(地元のコミュニティーカレッジ)の学生、ジェイムス・ブケー(19)はいつものように愛車のダットサンを飛ばしてフィットネス・クラブに向かっていた。口径12ゲージのショットガンを携えて。
 到着後、しばらくは駐車場内をグルグルと回り続けていたが、やがて意を決したのか、ショットガンを片手に下車。手始めにクラブの前に立つ男を射止めると、中に入って滅多矢鱈に撃ち始めた。
 彼は笑っていたという。発狂しているとしか思えなかった。既に息絶えた遺体のそばに仁王立ちになり、繰り返し銃弾を撃ち込んだというから、たしかに正気の沙汰ではない。これにより3人の女性が死亡、2人の男性が重傷を負った。結局、死者は4人ということになる。否。ブケーを含めば5人である。ひとしきり撃ち終えた後、自らの頭を撃ち抜いたのだ。

 さて、問題は動機だ。ブケーはいったいどうしてこんな大それたことを仕出かしたのか? 警察には皆目見当がつかなかった。
 噂によれば、犠牲者の女性のうちの一人が関係しているという。しかし、それも裏が取れたわけではない。
 また、ブケーは膝を酷く痛めていたという。重量挙げ選手の彼にとっては深刻な問題だった。しかし、そのことを思い悩んで自殺するのならばともかく、他人を道連れにすることの説明にならない。

 一つ確かなことは、ブケーは予てから大量殺人、無差別のスプリー・キラーに興味を持っていたということだ。事件の数週間前、グロスモント短期大学における創作の授業で、彼はスプリー・キラーを主人公にした13ページの小説を書いていたのだ。
 主人公の名前はナタス・A・ビショップ(Natas A. Bishop)。「Satan」の逆綴りである。そして、ナタスは他人の命を奪うことで人生に意味を見出せると信じている。

「どれほど考えただろうか? 寝る前にも考えた。考えながら眠るのだ。実を云えば、殺しのことを考えなければ、気持ちを落ち着けなくなっていたのだ」
(How many times had he thought about this ? At night it was the last thought he had. The one that put him to sleep. ln fact, he didn't feel right at night unless he thought about killing.)

 これは創作などではなく、ブケー自身の心境だったのではなかろうか?
 結局、ナタスはファストフード店でショットガンを乱射して10人を殺害する。

「銃弾は彼女の顔に命中し、顔面は赤く弾けた。髪の毛は僅かに残り、血が濯いでいた」
(The pellets hit her face and it became nothing more but a red pile of glob with thin hair and blood drops rinsed through it.)

 これはまさにブケーが現実に仕出かしたことである。彼はシミュレーションをしていたのだろうか?
 物語は「世の中はロボットで溢れている」ことを主張して締めくくられている。彼が精神を病んでいたことはまず間違いないだろう。

 なお、この事件の2週間後、同じエル・カホンで62歳のゴードン・ニューマンが、アパートの2階の窓から銃を乱射、通行中の女性と9歳の子供の命を奪い、5人に重傷を負わせた事件が発生している。彼もまた、ひとしきり撃ち終えた後、頭を撃ち抜いて自殺した。恰もブケーの狂気が感染したかのようで気味が悪い。

(2009年3月28日・2014年6月14日加筆/岸田裁月) 


参考文献

『THE ENCYCLOPEDIA OF MASS MURDER』BRIAN LANE & WILFRED GREGG(HEADLINE)
http://www.deseretnews.com/article/315520/KILLER-WROTE-ABOUT-A-MAN-OBSESSED-WITH-KILLING.html?pg=all


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