1939年11月25日、ここはユタ州ソルトレイクシティ。「オールド・バーン・イン」に勤める女給仕はいつものように午後8時に仕事に就いた。その日はオーナー一家は留守とのことだった。
やがて彼女はガスの臭いに気づいた。何処かでガスが漏れているのかも知れない。慌てて2階に駆け上がりオーナー一家の居間に向かうと、そこで少女の遺体で出くわして悲鳴を上げた。オーナーの娘マリー(5)だった。頭を叩き割られた上、首を紐状のもので絞められていた。
現場に急行した警察は続々と遺体を発見した。主寝室では奥方のアフトン・ウェンツが、子供部屋ではダーリーン(6)とバース(4)が同様に頭を叩き割られて、首を絞められていた。
そして、キッチンでは主たるグラント・ウェンツが倒れていた。頭を撃ち抜かれ、傍らにはライフルが転がっている。おそらく自殺したのだろう。つまりこれは無理心中だったのだ。間もなく彼の指紋がついた血みどろのハンマーと電線がキッチンのそばで発見された。
動機はすぐに判明した。「オールド・バーン」の経営がうまく行かず、ウェンツは破産寸前だったのだ。33歳の若さで独立してはみたものの、そのために破滅したのである。
ガス管をひねったのもおそらくウェンツである。2階の部屋のガス管はすべて開放されていた。ということはつまり、爆発させて給仕やら客やらを丸ごと道連れにしようとしていたわけであり、なんともはや太々しい男である。
(2009年1月27日/岸田裁月)
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