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ルートヴィヒ・テスノー
Ludwig Tessnow
a.k.a. The Mad Carpenter (ドイツ)


 英国の切り裂きジャック、フランスのジョゼフ・ヴァシェに続く本格的な連続殺人者が、ドイツのルートヴィッヒ・テスノーである。「マッド・カーペンター」と呼ばれた彼の犯行には、今日の「無秩序型」連続殺人犯の特徴がすべて揃っている。

 1901年7月2日、バルト海に浮かぶドイツ最大の島、リューゲン島での出来事である。遊びに出たままそれっきりのヘルマン・スタップ(8)とペーター・スタップ(6)の兄弟が無惨な遺体となって発見された。否。遺体と呼べるような状態ではなかった。頭は切り離され、内臓はぶちまけられ、爆発したんじゃないかと思えるほどにバラバラだった。森林一帯からすべてのパーツを集めるまでに半日もかかったほどだ。ジーパン刑事でなくとも「なんじゃこりゃあ!」と叫びたくなる有り様だった。

 やがてルートヴィッヒ・テスノーという流れ者の大工が容疑者として浮上した。前日に兄弟と話しているところが目撃されていたのだ。早速しょっぴいて家宅捜索したところ、血痕らしきものが付着した衣類が発見された。
「ああ、それ、塗料っすよ。大工の作業服に塗料がつくのは当り前じゃないっすか」
 テスノーはこのように弁明した。しかし、その嫌疑は増すばかりだ。というのも、3年ほど前にオスナブリュックで類似事件が発生していた。ハンネローレ・ハイデマン(7)とエルザ・ランゲマイヤー(7)という2人の少女が森の中でバラバラにされたのだが、その時に容疑者として逮捕されたのが他ならぬテスノーだったのだ。そして、その時も同じように塗料だと弁明して釈放されていたのである。

 やがて担当検事は6月11日に7頭の羊が惨殺された事件を思い出した。内臓がぶちまけられ、爆発したんじゃないかと思えるほどにバラバラだった…。
 あれ? おんなじぢゃないか!
 牧場主は犯人の顔を見ていた。早速、首実検を行ったところ、牧場主は迷うことなくテスノーを指差した。

 テスノーが下手人であることは間違いないが、有罪にするためには染みが血痕であることを立証しなければならない。ところが、当時はまだ血液の識別法は普及しておらず、捜査に採用されていなかった。はて、どうしたもんかと頭を抱えた担当検事は、パウル・ウーレンフートという生物学者が識別法を発見したとの情報を小耳に挟む。ダンケシェーンダンケシェーン。 も一つおまけにダンケシェーン。
 かくして染みのほとんどが「人間の血液」、残りは「羊の血液」であることが科学的に証明されて「気狂い大工」の命運は尽きるのであった。
 嗚呼、科学の勝利。文明の御代。
 こんにちわ、血みどろの新世紀。

(2007年1月6日/岸田裁月) 


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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