1972年4月21日金曜日、ミズーリ州カンザスシティ近郊ハリソンヴィルでの出来事である。ミリタリー・ジャケットに身を包み、肩まで届く黒髪をなびかせた一人の男が車から飛び降りたかと思うと、インディペンデンス通りを横切ってパール通りに突進した。チャールズ・シンプソン。隣町ホルデンで農作業を手伝う25歳の若者である。
彼が向かった先には2人の巡査がいた。ドナルド・マーラーとフランシス・ウィート。共に20代の新米警官だった。シンプソンはジャケットの下から軍用ライフル、M1カービンを取り出すと、躊躇することなく2人に向かって発砲した。応戦の機会が与えられることなく、2人は歩道に崩れ落ちた。シンプソンは彼らに小走りで近づき、そしてとどめを刺すべく銃を向けた。マーラーが叫んだ。
「待て! 撃つな! 撃たないでくれ!」
数発の銃声が辺りに響き渡った。
マーラーは胸を2発、腹を1発、そして両腕を、ウィートは腹を2発、右腕を3発撃たれて絶命した。一部始終を目撃していた通行人たちはパニックに陥り、通りでは車が玉突き衝突する大騒ぎである。
シンプソンの狼藉はこれに留まらない。近くのビルまで走り寄ると、壁に向かって繰り返し発砲。これにより2人の事務員が跳弾を浴びて負傷した。そして、この若者はいったい何を思ったのか、保安官事務所へと突き進んで行ったのである。
運が悪いことに、シンプソンが向かう先にはクリーニング屋の店主オーヴィル・アレンがいた。車から降りたばかりの彼は、格好の標的となって側溝に転がり落ちた。
保安官のビル・ガフは騒ぎを聞きつけてはいたが、まさか銃声とは思ってもみなかった。やれやれ、何の騒ぎだと表に出たところで右の肩を被弾した。そして、慌てて事務所に舞い戻り、事態の深刻さを知ったのである。
さて、小説や映画ならば話はこれからという時に、この物語はプツンと途切れてしまう。シンプソンはそれ以上銃撃することなく、メイン・スクエアまで戻ると、M1カービンの銃口を口に入れて引き金を引いたのだ。
彼はいったい何がしたかったのか? さっぱり判らないまま筆を置かなければならない。誠に遺憾なことである。
(2009年1月21日/岸田裁月)
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