１９４２年１月某日、ウィスコンシン州エルスワースでの出来事である。３人の子供を抱える２８歳のうら若き未亡人、ヴァーナ・ペタンの家から火の手が上がった。焼け跡から見つかった４つの遺体の状態に小さな町は震え上がった。母親は銃で撃たれ、刃物で刺された上に強姦されていたのだ。３人の子供たち、１０歳のジョージと６歳のニール、３歳のシルヴィアも喉を切り裂かれていた。まったくなんてえことをしやがるんだ。神も仏もあるもんか。
やがて有力な情報が寄せられた。隣に住む２５歳の若者、ジェイムス・サイメックが出火の前に訪ねていたというのだ。早速彼を尋問すると、その旨を素直に認めた。
「ペタンさんは車を持っていないんですよ。だから私が買い出しに出掛ける時は、ついでに彼女の分も買って来てあげるんです。あの日も何か買って来るものはないか訊きに行きました。でも『今日は間に合っているので、この次にお願いするわ』と云うので、すぐにお暇しました。その後のことは何も知りません」
これでは筋が通らない。ペタン家の玄関には食用雑貨が詰まった箱が、恰もその日に届けられたかのように置かれていたのだ。
サイメックの家を捜索すると、血みどろの衣服と３２口径のリボルバーが見つかった。弾道検査の結果、これが凶器に間違いない。また、ペタン夫人の結婚指輪に絡みついていた髪の毛はサイメックのものと一致した。
もう逃れられない。観念したサイメックは犯行を認めた。
「彼女とやりたかったんです。抱きついたら悲鳴を上げられました。それで反射的に撃ってしまったんです。
子供たちには申し訳ないことをしました。だけど、悲鳴を聞いて集まってきたので、殺さざるを得なかったんです」
なんとも身勝手な犯行だ。これが真実だとして、彼は子供たちの遺体が転がる中でその母親を犯したことになる。これほどおぞましい濡れ場はちょっと想像できない。性欲とは人をかくも非情にできるものなのだろうか？
サイメックは終身刑に処されたが、皆殺しにされた一家は浮かばれまい。
（２００８年７月１３日／岸田裁月）
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