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ギュンター・ポドラ
Guenther Podola (イギリス)



ポドラ(右)の眼の痣に注目

 裁判で記憶喪失を主張したユニークな男。こういうへんてこな事件はなかなか味わいが深い。

 ベルリン生まれの小悪党、ギュンター・ポドラは故郷を追われてカナダに渡り、ここでも盗みでとっ捕まって国外追放。骨を埋めることになる英国に身を寄せる。
 1959年7月、ロンドンはサウス・ケンジントンのシフマン夫人宅に忍び込んだポドラは、宝石やら毛皮やらを盗み出し、後日、私立探偵と偽りシフマン夫人に電話して、
「奥さんのいかがわしい写真や録音テープが手元にあるんですが、これを買い取ってくれませんかねえ?」
 身に憶えのなかった夫人は警察に通報。翌日の電話が逆探知されて、近くの電話ボックスにいたポドラは刑事たちに取り囲まれた。
 やべ。サツだ。
 韋駄天ポドラは走り抜け、1ブロックほど離れたマンションに逃げ込んだ。そこで物陰に隠れて様子を窺い、追い掛けて来たレイモンド・バーディー刑事を射殺するや逐電。 警察の面子は丸潰れだ。

 さあ、弔い合戦である。警察は全力を傾けて、数日中にポドラが投宿している安ホテルを突き止めた。
 ここからは警察とポドラの主張は食い違う。
 警察側の主張はこうだ。
「おい。警察だ。居るのは判ってるんだ。開けろ。開けないか」
「ゴリさん、どうします?」
「しょうがない。蹴破ろう」
 刑事ドラマでよく見る光景である。ゴリさんがドーンと蹴破ったところ、扉の向こうにポドラがいたゴチーンとぶつかり火花が散ってピヨピヨピヨと小鳥がさえずりポドラは気絶した。
 一方、ポドラは押し入ってきた刑事たちに寄ってたかって殴られたのだと主張した。仲間を殺された怨みがある。あり得ない話ではない。

 病院に運ばれて意識を取り戻したポドラは、逮捕前の記憶がまったくないと云い出した。6人の専門家が鑑定に当たったが判然としない。法廷はさながら記憶喪失勉強会の様相と呈した。やがてボドラが勾留中に出した手紙が押収された。昔のことにも触れている。
 なんだよ、憶えてるじゃんかよ。
 かくして陪審員の心証を損なったポドラは有罪となり、絞首刑に処された。


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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