1967年8月15日、カナダ中西部サスカチュワン州シェル・レイクでの出来事である。早朝、ワイルドリュー・ラングは農作業を手伝うために、隣人のジェイムス・パターソン宅を訪れた。子沢山の明るい家族だ。ところが、いくら呼べども返事がない。いったいどうしちゃったんだ? いつもなら子供たちがおじちゃんおじちゃんと集まって来るのに…。不審に思って家に入ると、台所で倒れるジェイムスに出くわした。顔中血みどろだ。こ、こ、こいつは大変だあ。ラングは6kmほど離れた電話ボックスに車を走らせ、警察に通報した。
現場に急行した警察は、ジェイムス・パターソンの他に8つの遺体を発見した。
イヴリン・パターソン(ジェイムスの妻)
ジーン・パターソン(17)
メアリー・パターソン(13)
ドロシー・パターソン(11)
パール・パターソン(9)
ウィリアム・パターソン(5)
コリン・パターソン(2)
ラリー・パターソン(1)
妻のイヴリンと末っ子のラリーは裏庭で、三女のドロシーは居間で倒れていた。他の子供たちはいずれも子供部屋で睡眠中に射殺された。彼らはいずれも頭を22口径のライフルで撃たれていた。
一家皆殺しに思われたが、4歳のフィリスだけはパールとジーンに挟まれて寝ていたために難を逃れた。しかし、それにしても何と痛ましいことだろう。生き残ってしまった彼女のことを思うと、不憫でならない。
悲惨な事件が報道されると、警察にいくつもの情報が寄せられた。いずれも容疑者を名指しするものだった。
「ヴィクター・ホフマンだ。あいつがやったに違いない」
21歳のヴィクター・ホフマンは、3週間ほど前に精神病院から退院したばかりだった。退院後も空に向けてライフルを撃ち、警察沙汰になっている。訳を訊かれた彼はこう答えた。
「悪魔を撃っているんだよ」
おいおい、治ってないじゃねえかよ。
4日後の8月19日に逮捕されたホフマンは、素直に犯行を認めた。動機はやはり悪魔絡みだ。悪魔と戦っていたと主張して譲らないのだ。悪魔とはどんな姿なのかと訊かれると、こう答えた。
「背が高くて、黒くて、おちんちんがない」
また、フィリスを撃たなかったのは「天使の顔をしていたから」とも述べている。
こんな具合だから、こいつを裁ける筈がない。精神病院に収容されて、2004年3月21日に癌で死亡。その病んだ心は治ることはなかった。
(2008年12月13日/岸田裁月)
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