ここはイングランドの南西部コーンウォール。26歳のマイルズ・ギフォードは父親のチャールズ・ギフォードを殺したいほど憎んでいた。裁判所書記という固い仕事に就いていた父親は、何かと彼をボンクラ呼ばわりするのだ。いや、事実ボンクラのプー太郎なのだから仕方がないが、彼のプライドがそれを許さなかった。
マイルズには結婚を約束した恋人がチェルシーにいた。しかし、父親は結婚を許さなかった。
「定職につくまでは駄目だ」
そりゃそうだろうと誰もが思うが、マイルズはそうは思わなかった。恋人への手紙の中でこのように書き綴っている。
「父親を殺さない限り、俺の将来には希望がない」
1952年11月7日、マイルズは父親におねだりする。
「恋人に会いにチェルシーまで行きたい。車を貸してくれないか」
「駄目だ駄目だ。女の尻ばかり追い掛けてないで、早く仕事を見つけなさい」
カチンと来た。殺っちまおうとこの時に思った。
両親は午後に車で外出。マイルズはウイスキーをがぶ飲みしながら決意を固める。7時30分に帰宅と同時に、ガレージで父親を、台所で母親を鉄パイプで殴り殺し、手押し車に遺体を乗せて、庭先の崖から投げ捨てる。これで俺の将来は大丈夫。車に乗り込むと恋人のもとへひとっ飛び。恐るべきボンクラ力に小生もたじたじだ。
「両親を殺してきたよ」
彼女は冗談かと思ったというから、この女もかなりのボンクラだ。
翌日にも遺体は発見されて、その日のうちにマイルズは逮捕された。判決は死刑。本件の記事を読みながら、私はデヴィッド・ボウイの『ヒーローズ』を思い出していた。
「We can be heroes just for one day」
マイルズの希望に満ちた将来は、たった1日で終わったのだ。
(2008年7月18日/岸田裁月)
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