開拓時代のカナダ南東部バサーストでの出来事である。妻と5人の子と暮らすトーマス・イースビーは、この地の初期の入植者だった。1828年12月初旬の或る晩、彼の家から火の手が上がり、焼け跡からは妻と4人の子供の遺体が発見された。検視陪審は死因を窒息と判断、5人は事故死として扱われる筈だった。
ところが、火災当時は近所に養子に出されていた4歳のジョセフが、母親が焼け死んだニュースを耳にするや否や、こう叫んだ。
「パパに殺されたんだ!」
この旨は直ちに当局に報告された。そして、改めて入念に検視した結果、事故死ではないことが判明した。いずれの頭蓋骨にも殴られた痕跡が残されていたのである。かくしてトーマス・イースビーは家族殺しの容疑で逮捕され、有罪となり絞首刑に処された。1829年8月のことである。彼は改悛の情を見せてはいたが、その動機については決して口を割らなかった。
と、ここまでならば今日でもよくある家族殺しの事件だが、本件が特筆に値するのはこれからだ。
イースビーの遺体は一旦は埋葬されたが、地元住民による報復が危惧されたために、掘り起こされて解剖に回された。その皮膚は剥がされ、鞣され、小さな四角に切り分けられて、1枚2ドルで一般に売られたと参考文献にはある。そんなもん買って、いったい何になるのだろうか?
(2009年1月23日/岸田裁月)
|