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クリント・ドットソン
Clint Dotson (アメリカ)


 

 コリン・ウィルソンは『犯罪コレクション(上)』の『アリバイ』の項の冒頭で「シャーロック・ホームズの出馬を求めたいような事件」として本件を紹介している。なかなか興味深い事件である。

 1901年9月某日、モンタナ州ヘルムズヴィル近郊でオリヴァー・ドットソンという老人が、自宅の小屋で死体となって発見された。心臓を銃で撃たれている。壁には銃が固定され、その引き金には紐が結ばれていたことから自殺であるかに思われた。死体の横には遺書らしきものも残されていた。
「カルミネーンを殺ったのは息子のクリントじゃない。俺が殺ったんだ」
 その筆跡は老人のものに間違いなかった。
 時は2年前の1899年8月5日に遡る。ジーン・カルミネーンという金鉱掘りが強盗に襲われて射殺された。この時に容疑者として逮捕されたのがクリント・ドットソンとオリヴァー・ベンソン、エリス・パーシンガーの3人だった。クリントは関与を否定したが、残りの2人は犯行を認めた。そして、殺したのはクリントだと主張した結果、2人には10年の禁固刑、かたやクリントには終身刑が云い渡された。そこへ来てこの事件である。クリントは無実だったのだろうか?

 かつてクリントを逮捕した保安官のジョン・ロビンソンは共犯者たちに確認した。
「本当にクリントが殺ったんだろうな? 嘘をつくと大変なことになるぞ」
「間違いありませんよ、旦那。この眼ではっきり見たんですから。第一、あっしらはあいつの親父なんかと組みませんよ」
 その通りだった。老いぼれのアル中爺さんと組んで強盗を働く者はいない。爺さんは息子を庇って我が身を犠牲にしたのだろうか?

 捜査を続けたロビンソンは、やがてクリントの監獄仲間だったジム・フレミングという男が半月ほど前に出所していたことを知る。この男が怪しい。早速調べてみることにした。
 ロビンソンはまず身分を隠して、フレミングの情婦に近づいた。
「ジムとはムショで一緒だったんだ。出所したって聞いたけど、今どこにいるのかな?」
「2、3日もしたら帰ってくるわよ。5万ドルの分け前を貰えることになったとか云ってたわ。本当かどうか知らないけど」
「あれ? 俺、その話、知ってるかな? たしかクリント…」
「そうそう、クリントよクリント。クリント・ドットソンって男から貰えるって云ってたわ」
 フレミングが爺さんの死に関わっていることは間違いない。死の直前に2人でいるところも目撃されている。そこでフレミングをしょっぴいて、カマをかけることにした。
「5万ドル貰えるそうじゃないか。クリントがみな白状したぞ」
 蒼醒めたフレミングはなにもかも白状した。それはベテランの保安官でも呆れるほどに極悪非道な犯行だった。

 娑婆が恋しくて堪らなかったクリントは、己れの犯した罪を父親になすりつけることを思いついた。そこで出所間近のフレミングに、5万ドルと引き換えに仕事を依頼した。
「俺の親父は手のつけられないアル中だ。酒さえ奢れば何だってする。しこたま呑ませて遺書を書かせろ。その後、自殺に見せかけて殺してくれ」
 これが遺書のからくりだった。息子による代理殺人だったのだ。

 ドットソンとフレミングは共に絞首刑に処された。まるで探偵小説かドラマのような見事なアリバイのトリックだったが、案外簡単に崩れてしまったのは残念だったなクリント君。

(2007年3月28日/岸田裁月) 


参考文献

『犯罪コレクション(上)』コリン・ウィルソン著(青土社)


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