奇妙な事件である。多くが謎のままなのがなんとも歯痒い。
1931年6月21日、ロンドン南西の街、オルダーショット近郊の砲兵隊駐屯地官舎で、ヒューバート・チェヴィス中尉とその妻がいつものように夕食を摂っていた。食卓に供されたのはヤマウズラだ。フランスで云うところのジビエ料理というやつである。
「ほう、これは美味しそうだなあ」
ところが、これが不味かった。チェヴィスは無理して飲み込んだものの、妻は思わず吐き出した。やがて2人の具合が悪くなった。妻は数日後には回復したが、チェヴィスは危篤状態に陥って、翌日には死んでしまった。
ヤマウズラからはストリキニーネが検出された。
葬儀の日、父親のウィリアム・チェヴィスは1通の電報を受け取った。発信地はアイルランドの首都ダブリン、発信人は「J・ハーティガン」とあるその電報には、眼を疑うような文字が綴られていた。
「万歳、万歳、万歳」
(Hooray Hooray Hooray)
イタズラにしてはあんまりな文面だ。
後日、同じ発信地、同じ発信人のもう1通の電報が届いた。
「本件の謎は解決不可能」
(It is a mystery they will never solve.)
果たして犯人から送られたものなのか? それとも単なるイタズラに過ぎないのか? 電報の通りに事件は未解決に終わったため、その答えは謎のままである。
ああ、歯痒い。
(2007年10月13日/岸田裁月) |