1957年4月4日深夜、ロサンゼルスの安酒場「クラブ・メッカ」にへべれけ連中がやって来た。クライド・ベイツ36歳、マニュエル・チャヴェス25歳、マニュエル・ヘルナンデス18歳、オスカー・ブレナウ44歳の4人である。ブレナウはすっかり出来上がっており、店に入るなりひっくり返った。残りの3人も手がつけられない有り様だ。
「よおよお、ねえちゃん。おいらと踊らねえか?」
「ケツでけえな」
「なあ、踊ろうよ」
「ケツでけえ」
「踊ろうってば」
お客さま、お静かに願えませんかと店の用心棒が注意を促すと、
「うるせえな。てめえはすっこんでろ!」
「やろうってえのか、このやろう!」
こういう時のための用心棒である。4人はまとめて店から叩き出された。
「いててててて」
「ばかやろう!。客をなんだと思ってんだ!」
「おぼえてろよ!」
「あいてててて」
腹の虫が治まらない4人組は良からぬことを思い立つ。車をガソリン・スタンドまで走らせて5ガロン入りのガソリン缶を買い求めると、とんぼ返りで店まで戻って二重駐車。エンジンはかけたまま。いつでも発進できるようにヘルナンデスが運転席にいた。ベイツがガソリン缶を店の中にぶちまけると、チャヴェスが火のついたマッチを放り込む。火の手がどうっと上がるや否や連中は一目散随徳寺。その間、ブレナウはバックシートで高鼾をかいていた。
「うっひゃっほう!」
「ぎゃはははは! ざまあみろってんだ!」
笑いごとではない。これにより6人もの命が奪われたのである。
ギルバート・ゴンザレス(20)
ホセ・メイトレナ(20)
アンソニー・スマルディノ(27)
フィリップ・クロウショウ(28)
ヘンリー・ロビンソン(64)
ジャクリーン・マッキネス(21)
この他にも2人が重傷を負った。
連中は朝まで陽気に呑んだくれていたが、酔いが醒めると「トンデモねえことをやっちまった」とガクガクブルブル。そして、数日後に逮捕された。目撃者が車のナンバーを控えていたのである。
高鼾をかいていたブレナウは検察側の証人になることで不起訴となったが、残りの3人は放火及び殺人の容疑で有罪となり、運転手のヘルナンデスには終身刑、実行犯のベイツとチャヴェスにはそれぞれ死刑が云い渡された。
サンクエンティンの死刑囚監房に収容されたベイツとチャヴェスは、他の4人と共謀して、看守を人質に脱走を企てるも、所長に説得されて断念。後にどういうわけか、知事の特赦により終身刑に減刑されている。
(2008年9月19日/岸田裁月)
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