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ベル・ガネス
Belle Gunness (アメリカ)



ベル・ガネスと子供たち(1904年頃)


若き日のベル

 女性版の「青髭」として後世に語り継がれるベル・ガネス(旧姓ポールセッター)は1859年、ノルウェーのトロンヘイムで生まれた。父親は旅回りの手品師で、幼い彼女も舞台に立っていたという。しかし、ベルが十代になると一家は田舎の小さな農場に引き蘢る。退屈な日常に飽き飽きしていたベルは1983年、刺激を求めてアメリカへと渡った。そして1888年、同郷のマックス・ソレンソンと結婚、イリノイ州オースティンに落ち着くと農作業と子育てに明け暮れた。ベルはおそらくこのように思ったことだろう。
「刺激を求めて新天地に移り住んだというのに、故郷にいた頃と同じことをしている…」
 やがてベルに転機が訪れる。1900年、夫のマックスが急逝したのだ。ベルが殺害したのかどうかは不明だが、とにかく、彼女は夫の死により多額の保険金を手に入れた。

 2人の娘を連れてシカゴに移ったベルは、保険金を元手に下宿屋を始めた。ところが、開業して間もなく下宿屋は全焼。彼女はまたしても多額の保険金を手に入れた。それを元手に今度はパン屋を始めるが、これまた間もなく全焼した。
 不審を抱いた保険会社から「お宅とのお取引はもうご遠慮させて頂きます」と引導を渡され、已むなくインディアナ州ラポーテで農場を営むピーター・ガネスと再婚した。彼との間には1男をもうけたが、1904年にまたしても彼女を「不幸」が襲う。棚から落ちた手斧がピーターの頭に命中して死んでしまうのだ。うまい具合に落ちてくれたものである。云うまでもないだろうが、ベルはまたしても多額の保険金を手に入れた。

 保険金詐欺はそろそろ潮時と悟ったベルは、新たなる商売を始めた。それは後に「ロンリー・ハート・キラー」と呼ばれるビジネスである。まず、雑誌にこのような広告を載せる。

「当方、年若く見目麗しい未亡人。インディアナ州ラポーテに広大なる敷地の農場を所有。結婚を前提として、資産と教養のある紳士との交際を希望」<

 そして、応募の中から条件(資産がある、身寄りがない等)に合う者を選び出すと、このように返信した。

「貴方様こそ私が探し求めてきた殿方に間違いありません。(中略)候補者の方からは相当額の現金か有価証券を担保としてお預かりすることにしております。財産目当ての不届き者を寄せつけないためには、それが得策だと思うからです。当方の評価額は、控えめに見積もっても2万ドルはございます。貴方様の誠意の証しとして5000ドルをご持参いただければ、将来について色々と語り合えるのではないかと存じます」

 如何にも胡散臭い文面だが、多くのお人好しがカマキリ夫人の毒牙にかかって帰らぬ人となった。



全焼したガネスの家

 ベルのビジネスが発覚したのは、アンドルー・ホールドグレンの殺害に関してだった。彼はベルには身寄りがないと云っていたが、実は弟がいた。しかも彼は弟にベルと結婚することを伝えていたのだ。それっきり梨の礫なのを不審に思った弟は、ベルに手紙で問い合わせた。そして、ベルから兄の行方不明を告げられると、すぐさまそちらに向かうと返答した。
 来られては大変だ!
 1908年4月28日、ガネス農場の母屋が全焼し、焼跡から4つの遺体が発見された。3体は長女のメイトル(12)、次女のルーシー(9)、そして長男のフィリップ(5)であることは間違いなかった。しかし、もう1体はベルであるかは判らなかった。その遺体は首が切断されていたからである。

 1ケ月後の5月23日、ベルに雇われて農作業や雑用を手伝っていたレイ・ランフィアという男が4件の殺人と放火の罪で起訴された。そして、放火のみで有罪を宣告され、21年の禁固刑に処された。
 一方、ガネスの農場を捜索した警察は、ホールドグレンを含む13名にも及ぶ遺体を発掘した。いずれも手足を切断され、油紙で包まれていた。
 また、問題の首なし死体のそばからベルの入れ歯が発見されて、おそらくベルの遺体だろうということで事件は収束した。

 数年後、監獄の中でランフィアは牧師に真相を告白した。自分はベルの愛人で、その犯行を手伝っていた。そして、あの首なし死体はベルではなく、拾ってきた浮浪者だった…。
 これが真実ならば、犯行の発覚を怖れたベルは、身替わりを立てて高飛びしたことになる。ならば彼女は何処にいるのか? その答は闇の中だが、ひょっとしたら故郷のノルウェーへと戻り、悠々自適に余生を過ごしたのかも知れない。


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『殺人コレクション(下)』コリン・ウィルソン著(青土社)
『死体処理法』ブライアン・レーン著(二見書房)
『世界犯罪百科全書』オリヴァー・サイリャックス著(原書房)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)
『LADY KILLERS』JOYCE ROBINS(CHANCELLOR PRESS)


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