可愛い娘の命には代えられない。パティの父君はとりあえず200万ドルを用意し「富の再分配」事業に取りかかった。ところが、事業が始められて10日後の4月3日、父君母君はおろか世界中がアッと驚く事態が発生した。 「私は本日をもってシンバイオニーズ解放軍の同志となることをここに誓う。私は以後、私自身の自由と、そして黒人の自由のために闘うことを使命とする」。 後に他の「同志」が明かしたところによれば、彼女は「陸軍元帥」に強姦され、その過程で洗脳されたとのことだった。 「私は残りの人生を決して豚どもと共に暮らすような真似はしない。ハースト家のような豚どもとはッ」。 ちょっと前の「パパ、ママ」の語調は何処へやら、彼女の勇敢な写真がカセットテープに添えられていた。SLAの旗の前でマシンガン構えて立つパティ。あら、この娘ももう立派な大人ねえ、などと喜んでいる場合ではないッ。SLAはオウム真理教と同様、単なる犯罪結社なのである。 「ファハイザ」ことナンシー・ペリー 元トップレス・ダンサー。27歳。 |
さあ、マスコミは騒然とした。なにしろ超タカ派で有名な、あのイエロー・ジャーナリズムの新聞王ハーストの孫娘が、こともあろうにテロリストになっちまったのである。これほど面白いことはない。ハースト家に恨み辛みのあるジャーナリストは五万といる。ここは大いに笑いたいところだが、そこはプロだから自粛して、しかし、この世紀の大イベントを盛大に演出した。 「あの男はクソ豚の性差別者だった。あいつは女を性の道具としか思っていなかった。私は貞操を蹂躙されて、性の奴隷と化した。あいつと暮らしたことは、私の生涯最大の汚点であった」。 おいおい、そこまで云うかよお、とも思ったが、あまりにも面白過ぎるので、全マスコミのマイクがスティーブンに集中した。 |
スティーブンがマイク攻撃に泣きベソをかいている頃、パティの事件はとてつもなく面白い方向に進行していた。 「少しでも動いてごらんッ。脳天にお見舞いするからねッ」。 うわあ。《パルプ・フィクション》のオープニングみたいなカッコいいセリフ。 「床に伏せなッ。 あたいたちを馬鹿におしでないよッ」。 三人組強盗団の構成員を立派に演じたパティは(残りの二人は「テコ」と「ヨランダ」のハリス夫妻)、今やSLAからは「信頼できる同志」、FBIからは「犯罪者」の烙印を押されるに至った。FBIの全国指名手配はパティのパパやママを苦しめたが、パティからの犯行声明がこれに追い討ちをかけた。 「私は何人からも強制された訳ではない。自らの意思に基づき、自らの判断で行動したのである。私の役割は客や警備員のホールド・アップであった。もちろん、私の銃は弾丸が装填されていた。いつでも脳ミソを粉砕するだけの準備は私には出来ていた」。 |