ベルナール・マクファデン
ルドルフ・ヴァレンチノの捏造写真 |
2. ベルナール・マクファデン
ルー・ストーンがタブロイドにおける「捏造記事の父」であるならば、「捏造写真の父」は間違いなく、このベルナール・マクファデンだろう。
このいんちき出版界の大物は、当初はいんちき医療家として登場した。すなわち「自然こそは万能薬」と信じる自然療法の提唱者だった。ボディビルを推奨し、1912年には『フィジカル・カルチャー百科』を出版、彼はここで小児麻痺や腎臓病、癌といった難病はすべて単純な食事療法で治すことが出来ると主張した。そして、女性のハイヒールは性的能力を減退させ、将来生まれる子供に悪影響を及ぼすと断言した。
やがて『トゥルー・ストーリー』等の大衆紙にも進出した彼は、悪辣な捏造写真(顔に別人をはめ込んだ、いわゆるアイコラのようなもの)で多くの人々を欺いた。中でも特に有名なのがルドルフ・ヴァレンチノの遺体の捏造写真である。
1926年8月、銀幕のスターにして「いい男」の代名詞、ルドルフ・ヴァレンチノがニューヨークで病に倒れた。急性虫垂炎、俗に云う盲腸炎である。直ちに緊急手術が施されたが、腹膜炎を併発し、8月23日、あっけなく逝ってしまった。まだ31歳だった。
この第一報を聞いたマクファデンは、いち早く二人の部下をブロードウェイの斎場へと派遣した。一人は写真を撮るためだが、もう一人は柩に身を横たえるためだ。こうして撮られた写真にヴァレンチノの顔がはめ込まれ、「安らかに眠る銀幕の恋人」と題されて、翌日の『イブニング・グラフィック』紙の第一面を飾った。それはなんと、ヴァレンチノの遺体が斎場に運ばれる前のことだったというから呆れてしまう。
この不正を非難されたマクファデンはこのように反撃した。
「この世では眼に見えたものが、すなわち真実なのだ。だから私の報道はすべて真実なのだ」
無茶苦茶なことを云うおっさんである。
しかしこのおっさん、本気でそう信じていたフシがある。己れの主張を盲信し、そのために命を落としているのだ。断食療法の提唱者だった彼は、黄疸の症状が出ても一切の治療を拒み、3日間断食した挙げ句に死亡している。享年87歳。まあ、長生きには違いないが、彼の健康法を実践していれば150歳まで生きられた筈なのに。おかしいなあ。
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