伊豆諸島 イルカとクジラの物語
伊豆諸島ではイルカや鯨は、他の漁獲物とは違うものと見ていたようです。
伊豆諸島の漁師達は昔から、季節によってイルカがどの様なルートで回遊するかを知っており、
それを神秘的なものとして考えていました。
海豚(イルカ)のイソベサマまいり(新島伝承)

かし、ある船が漁に出た。しかし待てど暮らせど魚が取れない。そこで船方は戻ろうと言い出した。けれども船頭は「もう一日、もう一日まて」と聞かない。業を煮やした船方は、なんと船頭に重りをつけて海に投げ入れてしまった。漁から戻ると船方は、さっそく船頭の家に行き、女房に涙ながらに言った。
「ご主人が波に飛ばされて海に落ちてしまった。助けることができなくて申し訳がない。」
 女房は「済んでしまったことはしかたがない。オキアガリに一杯やりなさい。あいにくつまみがないのでこれで我慢してくれ」と言って隣の部屋を開けると、なんと盤の上に寝かせておいた船頭が出できた。
 船頭はひごろからイソベ様への信心が深く、ちょうどイソベサマ参りに行く途中の海豚に助けられ、送ってもらったという。昔から海豚は旧2月、イソベサマ参りをすると言われている。
 旧暦の2月と言えば新暦で言うところの3月。この頃は、黒潮が御蔵島近海を流れはじめ、房総沖で親潮と対向してぶつかります。それにより養分を含んだ海水ができ、プランクトンや魚が増えます。これを追って、伊豆諸島の海底山脈を手がかりにイルカが北上してきます。御蔵島周辺でもイルカが増え始めるのは3月〜4月です。春先に数百頭のオキゴンドウの群れが、御蔵島近海で北上するのが観察されることもあります。
鯨の富士山参り(式根島伝承)
 かし33尋もある鯨が富士山参りをする途中に漁の船に出会った。
漁師が鯨を捕ろうとすると鯨は言った。
「富士山へ参るところだから帰りにとりな」
 それでも漁師が無理に槍をたてた。
 すると鯨は怒って漁師を一人のこらず食べてしまった


 オキゴンドウは春に御蔵島近海を北上し回遊することが知られています。この北上ルートの方向には富士山があります。伊豆諸島は海底山脈「七島−硫黄島海嶺」上にあり、この北端に実は富士山があるのです。次に伝説のクジラですが、33尋(1[尋]=1.8288[m])で約60m。最大のシロナガスでも25mですので文字通りの数値としてはではなくて「大きい」ことを言いたかったのでしょう。ところで御蔵島ではイルカの他にマッコウクジラも観察されることがあります。通常マッコウクジラは体長18m。水深2000mまで潜ることができ、1000m以上の深い海域を回遊します。伝説のクジラが人間を噛んだとするとハクジラでありマッコウクジラだったのかもしれません。そう言えば江戸時代に書かれたメルヴィルの白鯨も実在したマッコウクジラがモデルでした。

クジラ発見例  
2001年7月23日夕方4:00過ぎ頃に3頭のマッコウクジラが御蔵島港の目の前に現れました。宿まるいではこの時取った映像を見ることができます。最後には大きなフルークアップを見せて潜って行きました。
2002年4月下旬 御蔵島の黒崎高尾沖でアカボウが現れました。
2002年5月上旬、御蔵島港沖にマッコウクジラと推定されるのブローが見られました。

2002年6月30日 Pm3:40〜3:50 
 東海汽船サルビア丸 御蔵島→東京航路でマッコウクジラ出現。ブローやブリーチングを繰り返し、100名以上が目撃。東海汽船の船長さんが発見し、船内放送で教えてくれた。船長さんに感謝。