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御蔵島のイルカ (回遊と定住)


 自然環境保全促進地域指定(2004年1月)により、御蔵島のバンドウイルカの繁殖海域が
保護されることになりました!

2004年5月31日更新

黒潮の流れとイルカの回遊

 黒潮の位置とバンドウイルカの回遊は関係が有るようです。御蔵島周辺に黒潮が有る方が、餌も豊富で御蔵島にイルカも多く回遊してきます。季節を変えて御蔵島に行ってみると、その違いがわかってきますよ。 
 春になると房総半島沖は海が白く濁り始めます。黒潮に対抗して流れてくる親潮が、黒潮とこの海域でぶつかり、混合水域を作り、比重の異なる海水の接触によって渦(湧昇)ができ、栄養分を含んだ深層の海水が表層に押し上げられるのです。この栄養分は植物性プランクトンを大量発生させ、これを食べるアミなどの動物性プランクトンが大量に発生し、イワシ、タカベの良い餌になります。そしてそれらの魚を目的にカツオが回遊して来るのは有名ですが、小笠原方面から伊豆諸島を通りイルカも北上してくるのです。黒潮は房総沖の生き物に大きな恵みをもたらすのです。

黒潮の流れ (Japan current)とイルカの回遊。黒潮の流れは伊豆諸島にぶつかり乱流を発生させ、ミネラルをたくさん含んだ海水を御蔵島周辺に沸きあがらせています。
御蔵島のイルカの定住
(イルカの子育て)

 春から夏にかけてバンドウイルカの数が増えます。しかし季節が終わっても泳ぎが上手くない子供イルカを外洋に連れ出すのは危険です。そこで子供連れのメスなどはそのままここで越冬します。黒潮流域は流れが強く、流されたり、また外洋は荒れやすい為、泳ぎの下手な子供に泳ぎや群れでの行動、捕食を教える場として御蔵島が選ばれたのかも知れません。

 目印のない海の中では、海底までの深さ、海底の傾斜もイルカにとって重要な意味があるようです。イルカの行動をよく観察すると、日中になると一定の深さで大きな群れを形成し始めることに気づくでしょう。イルカは群れで行動する動物です。休息等を行うためには、速やかに大きな群れに合流し、効率よく休息する必要があります。海底の傾斜が大きい御蔵島ではイルカ達が一定の水深を保ってさえいれば島から離れることがなく、また仲間の群れも発見しやすくなります。群れから離れて活動していても、すぐに見つけられる便利さがあるのかもしれません。実際にイルカ・ウォッチング中に御蔵島ではイルカは常に岸から100m程度のところで多く観察することができるでしょう。(もし遠浅の海だとすると、同じ水深の海域がとても広くて、群れに合流するにも大変になってしまいます。)

御蔵島のイルカの親子
写真は御蔵島で撮影したバンドウイルカの親子です
御蔵島の湧昇深層水

 伊豆半島から海の中を伝って伊豆諸島まで、実は海の中は海底の山脈が連なっています。伊豆諸島の島々はその山脈の頂点の部分だけが水面から顔を出しているのです。沖縄の方から流れてきた暖かい海流「黒潮」は、伊豆諸島にぶつかり、島の裏側に大きな乱流を発生させます。すると海底にとどまっていた深層水は海面に向かって吹き上げられます。これを湧昇と言います。海底のミネラルを多く含んだ深層水は、海に棲む生き物たちに大きな恵みをもたらします。御蔵島〜八丈島のあたりの海域は、黒潮がもろにぶつかることが多い海域です。まさに海に棲む生き物にとっては楽園と言える海域なのでしょう。
御蔵島の海を使いこなすイルカたち

 御蔵島では毎年、生まれたばかりのイルカの赤ちゃんを見かけます。御蔵島はイルカにとって、出産、子育ての場として適しているようです。御蔵島がどうしてイルカにとって出産、子育てに適しているのかについては、そのほか、御蔵島は水が豊富な島ですので、海に流れ落ちる川の水によってにごりが発生する場所があり、サメ等の危険から守りやすいのではないかという説もあります。濁りのある水域へ回避する行動は、イルカが遊びたくないときにウォッチャーと出会った際にも時々観察されます。岸に近いほうが濁りが大きいため、かなり岸に近いところを縦一列になってすり抜ける行動も観察されています。おそらく複合的な理由で御蔵島が住みやすいということなのだと思います。