<柚木先輩のホワイトデー>

3/14。

世間一般でいうところのホワイトデー。





「・・・で、お前は何をむくれてるの。」

「・・・むくれてなんかいません。」

久々に母校の練習室に足を運んだ柚木は待ち合わせの相手である香穂子を前に軽くため息をついた。

むくれてなんかない、とさっきから主張するわりに香穂子はそっぽを向きっぱなしだし、弾いているヴァイオリンの音色はどことなしトゲトゲしている。

「わかりやすいな、お前は。」

「・・・・・・・・・」

くすっと小さな柚木の笑い声に、ヴァイオリンがギイっと不協和音を奏でる。

なんとも素直なその反応。

「別に・・・」

弓が止まって代わりに小さな呟きが聞こえた。

「拗ねてるわけじゃないんです。先輩の性格だって分かってるし。」

「へえ?」

促すような柚木の声に、しばしの沈黙。

それから沈黙にさえ融けてしまいそうなほど小さな声で。

「・・・他の人にお返ししてたって気にしないんだから・・・」

(・・・・まったく)

心の中で呆れたように呟く反面、柚木は片手を口元に当てて香穂子が背を向けている事に感謝した。

わかっていたくせに、不覚にも赤くなった顔を見られるなど絶対にごめんだ。

だから。

何かを諦めるように香穂子がヴァイオリンを机の上に置くのを見計らって後ろから手を伸ばして。





「今年のバレンタインは特別甘いの一つで十分だったから、他は受け取ってないと言わなかったか?」

「!!聞いてません!」





―― 驚いたように叫ぶ香穂子の目の前で柚木はラッピングされたプレゼントを揺らして笑った。







                                           〜 Fin 〜










<ホワイトデー仕様、デレ柚木(笑)同じ失敗はしませんよ(※2アンコール・笑)>













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