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<衛藤君のホワイトデー>

3/14。

世間一般でいうところのホワイトデー。

「・・・だからこれやるよ、って渡せばいいんだよ。」

いつも通い慣れた海岸通りへの道筋を歩きながら衛藤桐也はブツブツと呟いていた。

こんな姿を知り合いに見られたら笑われるどころではすまないだろうが、今の桐也の頭の中にはその可能性すら浮かんでいない。

頭の中は、今背負っているヴァイオリンケースの中に入れておいた小さめのキャンディーと・・・手の中にあるこれまた小さなプレゼント。

ヴァイオリンケースの中のキャンディーは先月2/14に香穂子からもらったチョコレートへのお返しなのであまり問題はないのだが、問題はこの手の中のプレゼントの方。

これをどうやって香穂子に渡すのか、それが今桐也の頭を占拠している大問題だった。

「ホワイトデーだし・・・もう付き合って2ヶ月以上たつし・・・」

別におかしくない。

おかしくないけれど、とにかくなんとも気恥ずかしいのだ。

ちょうど桐也の手に収まってしまうぐらいの小さなプレゼントに目を落として桐也は一つため息をついた。

「・・・簡単に渡せんならクリスマスの時に渡してるっつの。」

自分で自分の思考に桐也がつっこみを入れた、その時。

「わっ!」

「わっ!?」

背後から襲った軽い衝撃と、今まさに考えていた人の声に、桐也は必要以上に驚いた。

驚いた拍子に手の中のプレゼントが路上に転がり落ちる。

「あっ」

「!ごめん!」

桐也がプレゼントに手を伸ばすより後ろから来て桐也を驚かせたその人 ―― 香穂子がさっとかがんでそれを拾い上げる方が早かった。

「ごめん、そんなに驚くと思わなくて。」

「え、いや、いいけど。」

まさか貴方の事を考えていたところに声をかけられてびっくりしましたとは言えずに曖昧に誤魔化した桐也の前で香穂子が心配そうに小さなプレゼントを見る。

「多分汚れてないと思うけど・・・ごめんね?はい。」

そう言って香穂子にそのプレゼントを差し出された時、自然と桐也の口から言葉が滑り出ていた。

「それ、あんたの。」

「え?」

「ホワイトデーだから・・・その、あんたに。深い意味は、なく・・・はないんだけど・・・あーもー!いいから!楽器弾く時以外はつけててくれよ!わかった!?」

「!?は、はい!?」

「よし!じゃとっとと行くぞ!」

「え?え?ちょ、ちょっとまってよ!桐也君〜??」

思い切り勢いで押し切って、桐也は背中から追いかけてくる香穂子の声を聞きながら容赦なくズンズン歩き続けた。

・・・春めいてきた風が火照った顔にはちょっとぬるかった。





―― 例のプレゼントの中からシルバーの指輪が出てきて香穂子が赤面するのは、もう少し後の話。







                                           〜 Fin 〜










<この衛藤君は照れ屋仕様で。なんとなくこんなイメージです、衛香。>













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